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    アートメイク(PMU)インクの原料を徹底解説|顔料・賦形剤・退色と変色の化学

    2026年6月15日

    Medical ColumnTokyo Ueno

    アートメイクの仕上がり・色持ち・色変化・安全性は、すべて「インク(色素)」で決まります。インクの中身を、無機・有機顔料の違いから国際的な規制まで、論文ベースで掘り下げます。

    インクは何でできているか

    アートメイクのインクは、大きく分けて①色素(顔料)②賦形剤(キャリア液)③添加物で構成されます。色を作る「顔料」と、それを扱いやすくする「液体」の組み合わせです。

    ② 賦形剤(キャリア液) ① 色素 ③添加物 水・グリセリン・アルコール等 無機+有機顔料 防腐・分散 ※ 配合比はイメージ(製品により異なる)
    図:インクの大半は色素を運ぶ賦形剤(キャリア液)で、そこに無機・有機の顔料と少量の添加物が加わる。配合比は製品により異なる。
    構成要素役割代表的な成分
    ① 色素(顔料)発色のもと。無機顔料と有機顔料を組み合わせて色を作る。酸化鉄、カーボンブラック、二酸化チタン、アゾ系・キナクリドン系など
    ② 賦形剤(キャリア液)色素を溶かして均一にし、扱いやすくする液体。殺菌・保湿の役割も。精製水、グリセリン、各種アルコール、ウィッチヘーゼル、プロピレングリコール
    ③ 添加物分散・防腐・pH調整など品質安定のため。分散剤、防腐剤、pH調整剤など

    賦形剤や添加物も無関係ではありません。市販インクの分析では、保湿・溶媒に使われるプロピレングリコール(PG)や、防腐剤のイソチアゾリノン系など、アレルギーを起こしうる成分が検出されています。色素だけでなく、こうした副成分まで把握できることも、医療機関でインクを管理する意義のひとつです。

    無機顔料:安定だが、レーザーで黒変しうる

    鉱物由来の無機顔料は、発色が安定し光に強いのが特長です。眉や肌色の表現に欠かせませんが、鉄・チタンを含む色素はレーザーで黒く変色するという重要な落とし穴があります[2]

    顔料組成(CI番号)主な色/用途特徴・注意
    酸化鉄(赤)Fe₂O₃(CI 77491)赤・茶・肌色(眉・リップ)安全性が高く広く使用。レーザーで FeO に還元され黒変しうる[2]
    酸化鉄(黒)Fe₃O₄(CI 77499)黒・グレー(眉・アイライン)強磁性が最も強く、まれにMRIでチクチク感・熱感の主因に。
    酸化鉄(黄)FeO(OH)(CI 77492)黄・肌色の調整暖色系の調色に。不安定で経年で先に抜けやすい。
    カーボンブラックC(CI 77266)黒(アイライン・SMP)全顔料中で最小粒径。不溶で非常に色持ちが良い=最も消えにくい。タトゥー黒の主成分[4]
    二酸化チタンTiO₂(CI 77891)白(明度・不透明度の調整)パステル調・肌色づくりに混合。レーザーで黒変に関与しうる[2]

    有機顔料:鮮やかだが、光に弱く色変化しやすい

    炭素を骨格に持つ有機顔料は、鮮やかで彩度の高い色を出せます。現代のPMU製品では有機顔料が主体になっており、ある分析では同定された79種の色素のうち約3分の2が有機顔料でした[1]。一方、紫外線で分解(光退色)しやすく、経年で色味が変わる原因にもなります。

    顔料系統主な色特徴・注意
    アゾ系赤・橙・黄(例 PR22 / PY14)PMU・タトゥーで最も多用。鮮やかだが耐光性が低く、光やレーザーで発がん性が指摘される芳香族アミンに分解しうる[1]
    キナクリドン系赤・マゼンタ・紫(PV19 / PR122)リップに好まれる発色。耐光性が高く比較的堅牢だが、有機ゆえ退色はする。
    フタロシアニン系青・緑(PB15:3 / PG7)耐光性は高いが、EUのREACH規制で Pigment Blue 15:3・Green 7 が2023年から使用禁止に[5]
    ジケトピロロピロール(DPP)赤(PR254)最高クラスの耐光性。鮮やかな赤に。

    退色・変色の化学

    アートメイクが経年で「赤く」「青く」変化して見えるのは、色素の化学的な性質が原因です。

    施術直後 狙った色 約1年 少し退色 約2〜3年 赤み・黄みに偏る
    図:耐光性の低い色(黄など)が先に抜けるため、退色とともに残った色(赤み)に偏って見えることがある。色は退色後を見越して選ぶ。
    現象原因
    全体的に薄くなる(退色)有機顔料の光退色、浅い層からの色素排出。
    赤み・黄みに偏る耐光性の低い色(黄など)が先に抜け、残った色に偏る[1]
    青み・グレーに見える暖色の退色に加え、色素が深く沈着すると短波長の光が散乱して青く見える(チンダル現象)。眉・アイラインが青灰色化する一因。
    除去レーザーで黒くなる酸化鉄(Fe₂O₃)・二酸化チタンが還元され黒色化。リップ・眉の除去を難しくする[2]

    だからこそ、色は「入れた直後の色」ではなく「退色後に落ち着く色」を見越して選ぶ必要があります。色設計の考え方はデザインのページで解説しています。

    PMUインクとタトゥーインクの違い

    「PMU専用インク」という言葉から、タトゥーインクとは全く別物だと思われがちですが、化学的には基本構成は同じです。どちらも「色を出す有機顔料+黒・白の無機顔料」を液体に分散させたもので、PMUでも識別される色素の多くは有機顔料です[1][6]。違いは“別の化学物質”というより、色の傾向・色素負荷量・入れる深さにあります。

    観点PMU(アートメイク)インクタトゥーインク
    色の傾向肌色・眉・リップ向けに酸化鉄が目立つ。有機顔料も多用[1]黒(カーボンブラック)と鮮やかな色(アゾ系等)が中心[6]
    色素の量(負荷)比較的少なめとされる高負荷(皮膚に多くの色素が残る)[8]
    退色のしやすさ退色しやすい半永久的に残る
    除去時の黒変起こりやすい(肌色・白・赤に酸化鉄/チタン)[2]淡色で起こりうるが黒は反応しやすい
    法規制EU REACH・米FDAとも同一カテゴリとして規制(PMUも対象に明記)[5]

    よくある誤解の訂正

    • 「PMUは退色するように化学設計されている」は俗説。退色の主因は色素の違いより、入れる深さが浅いこと+皮膚のターンオーバーです[7]
    • 「オーガニック顔料=植物由来で安心」ではありません。顔料の世界で「オーガニック(有機)」は“炭素を含む合成色素”という化学的な意味で、天然・植物由来という意味ではありません。
    • 「PMU専用」「REACH適合」表示でも、実際の成分が表示と異なる例が報告されています。だからこそ成分・品質管理が確認されたインクを医療機関で用いることが重要です。

    安全性と規制

    インクの安全性で知っておきたいこと

    • PMU・タトゥーインクには、製造過程で重金属・多環芳香族炭化水素(PAHs)・ニッケルなどの不純物が混入しうることが指摘されています[3]
    • EUはREACH規則(附属書XVII entry 75)で色素中の有害物質を規制し、2022年から段階適用。一部の青・緑の有機顔料は2023年から禁止されました[5]
    • 日本にはアートメイク色素の成分を直接規制する法令がありません。化粧品の成分基準(ポジティブ/ネガティブリスト)は皮膚の表面に塗る成分が対象で、針で注入するアートメイク色素は対象外——ここが規制の空白です。だからこそ、医療機関が成分・品質管理を確認したインクを用いることが安全性の前提になります。

    色素アレルギーに注意

    色素(特に赤系)への遅延型アレルギーが起こることがあります。過去に金属アレルギーや化粧品でかぶれた経験がある方は、カウンセリングで必ず申告してください。施術は医師の診察のうえで行います。

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    参考文献

    1. Rigali S, Cozzi C, Liszewski W. Identification of the pigments used in permanent makeup. J Am Acad Dermatol. 2024;91(3):474-9.(PMU色素79種の同定:有機59・無機20)リンク
    2. Anderson RR, et al. Cosmetic tattoo ink darkening: a complication of Q-switched and pulsed-laser treatment. Arch Dermatol. 1993;129(8):1010-4.(酸化鉄・二酸化チタンのレーザー黒変)リンク
    3. Ghafari G, et al. Permanent makeup: a review of its technique, regulation, and complications. J Am Acad Dermatol. 2024.(PMUの総説:不純物・規制)リンク
    4. Grant CA, et al. Tattoo ink nanoparticles in skin tissue and fibroblasts. Beilstein J Nanotechnol. 2015;6:1183-91.(粒子径・カーボンブラック)リンク
    5. Commission Regulation (EU) 2020/2081(REACH 附属書XVII entry 75:タトゥー・PMU色素規制。Pigment Blue 15:3・Green 7 は2023年から禁止)リンク
    6. Niederer M, et al. Identification of organic pigments in tattoo inks and permanent make-up using LDI-MS. F1000Research. 2018;6:1937.(タトゥーとPMUの色素比較)リンク
    7. De Cuyper C. Complications of Cosmetic Tattoos. Curr Probl Dermatol. 2015;48:61-70.(PMUは浅い真皮に入れるため退色する)リンク
    8. Engel E, et al. Modern tattoos cause high concentrations of hazardous pigments in skin. Contact Dermatitis. 2008;58(4):228-33.(タトゥーの高い色素負荷)リンク

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