Journal — inklinic
タトゥー除去の広告に「必ず消える」と書けない法律上の理由
2026年9月7日

医療の広告に「必ず」がない理由
「必ず消える」と書いていないのは、自信がないからではありません。タトゥー除去の広告を読み比べると、慎重な言い回しが多いことに気づきます。「回数には個人差があります」「完全に消えない場合もあります」といった注意書きです。これを弱気だと感じる人もいるでしょう。けれど、この慎重さには法律上の理由があります。医療法は、医業や病院・診療所の広告について「虚偽の広告をしてはならない」と定めています[1]。「必ず消える」という約束は、この条文に触れるおそれのある言葉です。
厚生労働省は2025年8月の通知で、医療は生命・身体に関わるサービスだと述べています。そして、広告の受け手が文言から実際のサービスの質を事前に判断することは非常に難しいと説明しています[4]。だからこそ医療の広告には、一般の商品よりも厳しいルールがかけられています。2018年5月には、医療機関のウェブサイトへの法的規制を求める消費者委員会の建議を受け、厚生労働省が医療広告ガイドラインを策定しました[2]。この記事では、その条文の中身と、レーザー除去で「必ず」と言えない医学的な理由をたどります。

医療法第6条の5が禁じる広告
医療法第6条の5第1項は、医業や病院・診療所の広告で虚偽の広告をしてはならないと定めています。第2項第1号は他の医療機関より優良であると示す広告を、第2号は誇大な広告を禁じています[1]。医療広告ガイドラインは、虚偽広告が禁じられる理由をこう説明しています。患者に著しく事実と相違する情報を与え、適切な受診機会を失わせ、不適切な医療を受けさせるおそれがある。そのため罰則付きで禁止する、という考え方です[3]。広告に嘘があると、本来なら別の選択をしたはずの人が、その機会を失ってしまうからです。
誇大広告は、虚偽広告とは少し違います。必ずしも嘘ではないものの、事実を不当に誇張したり、人を誤認させたりする広告のことです。ガイドラインは、実際に誰かが誤認した結果の証明までは必要ないとしています[3]。誤解を招くおそれがあるだけで、規制の対象になるということです。2025年8月の通知では、これらに加えて、治療効果に関する体験談や、誤認のおそれのある治療前後の写真も禁止の対象として挙げられています[4]。「この人は消えたから自分も消える」と思わせる見せ方は、このルールに触れるおそれがあります。
「絶対安全」「必ず成功」が虚偽広告になる理由
ガイドラインは、虚偽広告の具体例として「絶対安全な手術です!」「どんなに難しい症例でも必ず成功します」を挙げています。そして「絶対安全な手術等は、医学上あり得ないので、虚偽広告として取り扱う」と明記しています[3]。2025年8月の通知でも、「絶対に安全」「必ず綺麗になる」を、医学上あり得ない表現として違法な虚偽広告の例に挙げています[4]。ポイントは、「嘘をついた」かどうかではありません。医学的にあり得ない結果を約束した時点で、虚偽広告として扱われるという考え方です。
タトゥー除去の広告にも、この考え方はそのまま当てはまります。レーザー除去は、皮膚の中のインクを砕いて体に吸収させる治療です。後で見るように、インクの色や皮膚の状態によって反応は大きく変わります。「必ず消える」は、「必ず成功する」「必ず綺麗になる」と同じ種類の約束です。あり得ない結果を約束すれば、虚偽広告として扱われるおそれがある。だから誠実なクリニックは、あえてこの言葉を使いません。慎重な注意書きは、医学の限界を正直に伝えている印です。
2025年の通知は、もう一つ見落としがちな例も挙げています。ウェブサイトなどで、自由診療の治療内容、費用、リスク・副作用などの詳しい情報が提供されていない場合も、違法な例だとしています[4]。良いことだけを大きく書き、費用や副作用を載せない広告は、この点で問題になります。タトゥー除去の広告を見るときは、料金と副作用がきちんと書かれているかも、あわせて見てください。
インクの色によって消え方が違う
「必ず消える」と言えない医学的な理由の一つが、インクの色です。2015年に発表された研究では、白、茶、黒の3種類のインクについて、QスイッチNd:YAGレーザーの照射前後の吸収を測り、ラットの皮膚に入れて同じレーザーで2回治療しました[6]。黒インクは可視光の全体で強い吸収を示し、レーザー後に吸収が下がりました。白インクは可視光での吸収が低く、白と茶のインクは照射後にかえって暗くなりました[6]。ラット皮膚での反応は、白がpoor(不良)、茶がfair to good(普通から良好)、黒がexcellent(優れる)でした[6]。
著者らは、黒インクの良い反応は強い吸収と小さい粒子径に、白インクの悪い反応は低い吸収と大きい粒子径に関係すると報告しています[6]。レーザーは光を吸収させて熱でインクを砕く仕組みですから、光を吸わない色は砕きにくいのです。黒いスポンジは日差しで熱くなるのに、白いスポンジは熱くなりにくい。それに近いイメージです。ラットでの実験結果ではありますが、色の違いが反応の違いを生むことを示しています。
人での研究をまとめたレビューもあります。2022年の系統的レビューは、3,037件の研究を検索し、無作為化比較試験7件、非無作為化比較試験2件、症例集積研究27件の計36件を検討しました[7]。QスイッチNd:YAGレーザーは安全かつ有効で、ピコ秒レーザーは青・緑・黄の色素で優れていると報告しています。黒色のタトゥーには両方が安全かつ有効でした[7]。同時に、研究間のばらつきを限界として挙げ、より明確な推奨には追加の無作為化比較試験が必要だと結論しています[7]。色ごとに得意なレーザーが違い、しかも結論にはまだ幅がある。これが医学の現状です。

皮膚と部位、インクの量でも回数は変わる
色だけでなく、皮膚やタトゥーそのものの特徴も結果に関わります。2009年に発表されたKirby-Desaiスケールの研究では、レーザー除去を受けた患者100人の診療録を後ろ向きに検討しました[5]。皮膚型、部位、色、インク量、瘢痕(傷あと)、重ね彫りの6項目でタトゥーを点数化し、その合計点と、満足できる除去に要した施術回数との相関係数は0.757でした(100人、p<0.001)[5]。点数が高いほど、回数が多くかかる傾向がはっきりあったということです。
この研究は、100人全員で「satisfactory tattoo removal(満足できる除去)」と評価されたと報告しています[5]。ただし、これは施術回数の見通しに複数の特徴を使うという提案であり、全てのタトゥーが完全に消えることを保証する研究ではありません[5]。2015年の総説は、除去に関わる要素をレーザー側、タトゥー側、宿主(患者)側に分けています。タトゥー側にはサイズ、深さ、色素の色があり、患者側の要素として主に強い免疫応答を挙げています[8]。皮膚の表現型も除去に関わると説明しています[8]。
つまり同じ黒いタトゥーでも、大きさ、深さ、入っている部位、その人の皮膚と免疫の働きによって、必要な回数は変わります。広告の段階でこれを一人ひとりに当てて言い切ることはできません。だからこそ、回数の見通しは診察で皮膚とタトゥーを実際に見て話す形になります。診察でいくつも質問されるのは、この6項目のような点を確かめているからです。「必ず消える」と広告に書けない理由は、法律の前にまず医学の側にあるのです。
違反した広告にはどんな手続きと罰則があるか
ルールを破った広告には、段階を追った手続きがあります。医療法第6条の8第1項は、違反のおそれがある場合に、報告命令や立入検査を認めています[1]。ガイドラインは、通常はまず行政指導で広告の中止や是正を求めるとしています。従わない場合や違反を繰り返す悪質な事例では、第6条の8第2項に基づく中止・是正命令を行います[3]。この命令の対象は、第6条の5第2項や第3項などへの違反、つまり比較優良広告や誇大広告などです[1]。
虚偽広告はさらに重く扱われます。第6条の5第1項の虚偽広告は、第87条第1号により直接罰の対象で、6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が定められています[1]。ガイドラインは、虚偽広告を行って行政指導に応じない場合などには告発を検討するとしています[3]。第6条の8第2項の命令に違反した場合も同じ刑罰の対象です[1]。報告を怠ったり虚偽の報告をしたり、検査を拒む・妨げる・忌避する行為には、第89条第2号により20万円以下の罰金があります[1]。
悪質な違反広告については、管理者変更命令、開設許可の取消し、閉鎖命令も検討できるとガイドラインは記載しています[3]。広告の一文が、クリニックの存続に関わる問題にまでつながり得るということです。医師が「必ず消える」と書かないのは、この重さを知っているからでもあります。読者にとって大事なのは罰則の細部より、「守るコストが高いルールをきちんと守っている」という事実です。守っているかどうかは、広告の言葉にそのまま表れます。
断定のない広告をどう読み、何を確認するか
ここまでの内容を手がかりに、広告の読み方を考えます。「必ず消える」「絶対安全」「100%」のような言い切りがあれば、法律に触れるおそれのある表現を使っているということです。ガイドラインと通知が虚偽広告の例として挙げる言葉と、同じ性質のものです[3, 4]。逆に、回数に個人差があること、完全に消えない場合があることを書いている広告は、医学の限界を正直に伝えています。ただし、断定がないことは手がかりの一つであって、それだけで医療の質が決まるわけではありません。
あわせて見てほしいのは、費用、回数の見通し、リスク・副作用が具体的に書かれているかです。2025年の通知は、自由診療でこれらの詳しい情報が提供されていないウェブサイトを違法な例に挙げています[4]。医師が診察してから回数を説明する体制になっているか、問い合わせ先がはっきりしているかも確認してください。良いことも悪いことも同じ大きさで書いてある広告は、それだけで信頼の材料になります。
inklinicでも、はじめに医師が皮膚とタトゥーを診察したうえで、色、部位、インクの量を見て回数の見通しと副作用を説明します。広告の段階で「必ず」と言えないからこそ、あなたのタトゥーについては診察の場で具体的にお話しします。料金や通う回数についても、その場でお伝えします。気になる点や不安なことは、遠慮なく予約時にご相談ください。
よくある質問
タトゥー除去の広告に「必ず消える」と書いてあったら違法ですか?
医療広告ガイドラインは「絶対安全な手術です!」「どんなに難しい症例でも必ず成功します」を虚偽広告の例に挙げ、医学上あり得ない結果の約束は虚偽広告として扱うとしています。2025年の通知も「必ず綺麗になる」を違法な例に挙げています。「必ず消える」も同じ趣旨の表現で、医療法第6条の5第1項に触れるおそれがあります。
虚偽広告を出したクリニックにはどんな罰則がありますか?
医療法第87条第1号により、虚偽広告には6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が定められています。ガイドラインでは、通常は行政指導で中止・是正を求め、応じない場合などに告発を検討します。悪質な事例では管理者変更命令、開設許可の取消し、閉鎖命令も検討の対象になります。
レーザー除去で「必ず消える」と言えないのはなぜですか?
インクの色によってレーザーの吸収が違い、ラット皮膚の実験では黒が優れ、白は不良でした。人での100人の診療録の研究では、皮膚型、部位、色、インク量、瘢痕、重ね彫りの6項目の合計点と施術回数の相関係数が0.757でした。色や皮膚、免疫の働きで結果が変わるため、広告の段階で一人ひとりに言い切ることはできません。
誠実なクリニックの広告はどう見分ければよいですか?
「必ず」「絶対」のような言い切りがないことは手がかりの一つです。あわせて、費用、回数の見通し、リスク・副作用が具体的に書かれているか、医師の診察を受けたうえで説明を受けられるか、問い合わせ先がはっきりしているかを確認してください。
参考文献
- [1]. 日本国. 医療法. (厚生労働省, 昭和23年制定、現行法令). リンク
- [2]. 厚生労働省医政局長. 医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン)等について. (厚生労働省, 2018). リンク
- [3]. 厚生労働省. 医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン). (厚生労働省, 2024). リンク
- [4]. 厚生労働省医政局長. 美容医療に関する取扱いについて. (厚生労働省, 2025). リンク
- [5]. Kirby W, Desai A. The Kirby-Desai Scale: A Proposed Scale to Assess Tattoo-removal Treatments. (Journal of Clinical and Aesthetic Dermatology, 2009). リンク
- [6]. Leu FJ, Huang CL, Sue YM, Lee SC, Wang CC. Effects of tattoo ink's absorption spectra and particle size on cosmetic tattoo treatment efficacy using Q-switched Nd:YAG laser. (Lasers in Medical Science, 2015). doi:10.1007/s10103-014-1657-6. リンク
- [7]. Gurnani P, Williams N, Al-Hetheli G, Chukwuma O, Roth R, Fajardo F, Nouri K. Comparing the efficacy and safety of laser treatments in tattoo removal: A systematic review. (Journal of the American Academy of Dermatology, 2022). doi:10.1016/j.jaad.2020.07.117. リンク
- [8]. Sardana K, Garg VK, Arora P, Khurana N. Optimising laser tattoo removal. (Journal of Cutaneous and Aesthetic Surgery, 2015). doi:10.4103/0974-2077.158440. リンク
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