Journal — inklinic

    アートメイクをしていてもMRI検査は受けられる?報告事例と備え

    2026年8月31日

    Medical ColumnTokyo Ueno
    アートメイクをしていてもMRI検査は受けられる?報告事例と備え

    なぜ「アートメイクとMRI」が心配されるのか

    アートメイクは、眉やアイラインの皮膚に専用の色素を入れて、毎日のメイクの手間を減らす施術です。一方、MRIは強力な磁石を使って体の中を撮影する検査です。アートメイクの色素の一部には鉄を含む成分が使われることがあり、この鉄が磁場に反応するのではないか、という心配が生まれます[6]。実際に、MRI中にアートメイク部位が熱く感じられたという報告は存在します。

    ただし、米国FDA(食品医薬品局)は、こうした事象は「まれで、持続的な影響はないようだ」と記載しています[8]。そしてMRIを避けるのではなく、アートメイクがあることを放射線科医や診療放射線技師に伝えるよう案内しています[8]。公的機関の姿勢は、検査をあきらめることではなく、事情を伝えたうえで受けることだとわかります。この記事では、その判断のもとになった報告と研究の数字を順番に見ていきます。

    問題が報告された件数はどれくらいか

    もっとも規模の大きい調査は、2002年に発表された質問票調査です[1]。コスメティックタトゥーの施術者を通じて配布された質問票1,032件を集計しました[1]。そのうちアートメイク後にMRIを受けた人は135人、13.1%でした[1]。このうちMRIに関連した症状を報告したのは135人中2人、約1.5%です[1]。1人は「軽いチクチク感」、もう1人は「灼熱感」を訴えましたが、いずれも一時的な症状でした[1]。

    文献に発表された症例を集めたレビューもあります。2020年のレビューは、2020年時点で公表されていたMRI誘発タトゥー合併症の症例報告17例を確認しました[4]。そのうちコスメティックタトゥー、いわゆるアートメイクは5例(29%)です[4]。この17例は、あくまでその時点までに論文として発表されていた症例に限られる数字です。未公表の事例や報告されなかった事象、その後発表された症例までは含まれていません[4]。

    ここで1つ注意があります。135人中2人という数字は、質問票に答えた人に限られた値です。MRIの機種や撮影部位、インクの製品ごとの発生率を示すものではありません[1]。それでも「報告は実在するが、件数は少ない」という全体像をつかむには十分な手がかりです。

    1,032件の質問票のうち、MRIを受けた135人(13.1%)、そのうち症状を報告した2人(約1.5%)を、大中小の入れ子の円または面積比で示す図解。数字と割

    報告された症例はどれくらい重かったのか

    具体的な症例を1つ見てみましょう。2009年にフランスから報告されたのは、頭痛の検査でMRIを受けた24歳の女性です[2]。両まぶたにアイラインのアートメイクを入れてから5か月後のことでした。MRI開始から1分後に灼熱感とまぶたの赤みを訴え、検査は中断されました[2]。灼熱感は検査が終わる頃までに消え、赤みも2時間後までにはなくなりました[2]。報告した医師らは、リスクは小さいものの、施術者と本人、MRI担当者が知っておく必要があると結んでいます[2]。

    先ほどの2020年レビューも、症状の経過について同じ傾向を伝えています。症状はMRI中に急に起こる痛みで、検査の中断が必要になる場合がある一方、皮膚に変化がない例や、赤み・腫れを伴う例がありました[4]。そして重要な点として、熱による皮膚のやけどは17例のいずれでも確認されませんでした[4]。回復は速く、後遺症は残らなかったと記載されています[4]。

    灼熱感が起きる仕組み。鍵は鉄を含む色素

    原因として研究者が注目しているのは、色素に含まれる磁性を持つ鉄化合物や不純物です[6]。2023年の研究では、眉・アイライン・リップ用のアートメイクインク20製品を磁石で調べ、8製品が磁性を示しました[6]。詳しい分析では、鉄に加えて磁鉄鉱、針鉄鉱、赤鉄鉱という鉱物が検出されました[6]。研究者らは、この中でも特に磁鉄鉱が、MRI中の痛みや灼熱感に関わる主な候補物質だと考えています[6]。ただし、鉄の濃度が高いことだけでは磁性や症状の有無を説明できません。正確な仕組みもまだ分かっていません[6]。

    では、実際に皮膚は熱くなっているのでしょうか。2018年の実験では、アートメイク用として売られる製品を含む22の製剤をシャーレに入れ、3テスラのMRIで温度を測定しました[5]。結果は、磁場の中心で平均0.14〜0.26℃の変化にとどまり、この試験条件下では臨床的に意味のある温度上昇は確認できませんでした[5]。鉄の濃度が高い製剤ほど熱くなる、という関係も見られませんでした[5]。ただしこれはシャーレの中で行われた実験、いわゆる生体外実験であり、実際の患者の皮膚温や組織損傷、痛みの原因を直接測定したものではありません[5]。この結果だけから、患者の皮膚が実際に焼けていないと結論づけることはできません。

    MRIの強い磁場の中で、皮膚内に定着した磁性顔料の粒子(磁鉄鉱など)が反応し、近くの神経に刺激が伝わるという仮説の模式図。皮膚の断面に顔料粒子と神経を描き、磁場

    画像の乱れは起きるのか

    症状とは別に、画像への影響も報告されています。1986年の報告では、鉄酸化物の粒子を使った眼瞼のタトゥーによって、脳と眼窩のMRI画像に線状の乱れと眼球の形のゆがみが生じました[3]。研究者らはタトゥーを入れたブタの耳でも同じ乱れを再現し、鉄酸化物が周囲の磁場をゆがめたことが原因である可能性が高いとしています[3]。FDAも、特にアイラインのアートメイクがある人の眼のMRIで、顔料による画像品質への影響が報告されているとしています[8]。

    一方で、影響が常に出るわけではありません。ドイツの地域住民を対象にした研究では、3テスラのMRI(脳や腹部の撮像を含む)を受けた3,639人のうち305人にタトゥーやアートメイクがありました[7]。しかし、これらによってMRIの位置決め用画像の質が下がった例は報告されませんでした[7]。画像への影響は、顔料の種類、施術部位、撮影する場所と条件によって変わり、一律ではないということです。目の近くを撮影する場合は、事前に技師へ伝えておくことが特に大切になります。

    3,639人の大規模研究が示した安心材料

    規模の大きい研究をもう少し詳しく見てみましょう。2022年に発表されたドイツのラインラント研究では、MRIを受けられると判断された4,259人のうち3,639人(85.4%)が実際に3テスラのMRI(脳や腹部の撮像を含む)を受けました[7]。このうち305人(8.4%)にタトゥーまたはアートメイクがありました。内訳はタトゥーのみが220人、約6.0%です[7]。アートメイクのみは73人、約2.0%でした[7]。両方ある人は12人、約0.3%です[7]。そして、参加者から有害事象の報告は1件もありませんでした[7]。

    もちろん限定はあります。この研究は脳や腹部のMRIといった特定の撮影条件での観察です。全身のあらゆる撮影条件や、世界中の全てのアートメイク製品に同じ結果を広げることはできません[7]。それでも、数千人規模の検査で問題が1件も起きなかったという事実は重い材料です。「アートメイクがあるからMRIは危険」という単純な図式は、少なくともこのデータでは成り立ちません。

    検査を受ける前に本人ができる備え

    備えの中心は、隠さず伝えることです。FDAは、MRIを避けるのではなく、アートメイクがあることを放射線科医または診療放射線技師に伝えるよう案内しています[8]。検査前の問診票には金属やタトゥーに関する項目が含まれることがあります。眉やアイラインのアートメイクも忘れずに伝えましょう。事前に伝えておけば、施設側で検査中の対応をあらかじめ検討しやすくなります。

    加えて、施術を受けた時期と部位を答えられるようにしておくと、検査側の判断がスムーズになります。検査中にチクチク感や熱さを感じた場合は、我慢せずすぐに合図してください。先に見た症例でも、症状は検査を止めたあと速やかに消えています[2]。将来MRIを受ける予定がある方や不安のある方は、施術前のカウンセリングでご相談ください。

    よくある質問

    アートメイクをしているとMRI検査は受けられませんか?

    受けられます。米国FDAは、MRIを避けるのではなく、アートメイクがあることを放射線科医や診療放射線技師に伝えるよう案内しています。事前に伝えておくことが備えの中心です。

    MRI中に症状が出た報告はどれくらいありますか?

    2002年の質問票調査では、アートメイク後にMRIを受けた135人のうち症状を報告したのは2人(約1.5%)で、いずれも一時的でした。2020年の文献レビューが世界中から集めた症例も17例にとどまります。

    MRI中の灼熱感は皮膚のやけどですか?

    2020年のレビューでは、17例のいずれでも熱による皮膚のやけどは確認されず、回復は速く後遺症も残らなかったと記載されています。実験でも臨床的に意味のある温度上昇は確認されていません。

    アートメイクはMRIの画像に影響しますか?

    鉄酸化物を使った眼瞼タトゥーで画像の乱れが生じた報告があります。一方、3テスラ脳MRIの大規模研究では画質低下は報告されませんでした。影響は部位や条件で変わるため、目の近くを撮る場合は特に事前申告が大切です。


    参考文献

    1. [1]. Whitney D. Tope, Frank G. Shellock. Magnetic resonance imaging and permanent cosmetics (tattoos): survey of complications and adverse events. (Journal of Magnetic Resonance Imaging, 2002). doi:10.1002/jmri.10049. リンク
    2. [2]. H. Offret, M. Offret, M. Labetoulle, O. Offret. [Permanent cosmetics and magnetic resonance imaging]. (Journal Français d'Ophtalmologie, 2009). doi:10.1016/j.jfo.2008.07.002. リンク
    3. [3]. G. Lund, J. D. Wirtschafter, J. D. Nelson, P. A. Williams. Tattooing of eyelids: magnetic resonance imaging artifacts. (Ophthalmic Surgery, 1986). doi:10.3928/1542-8877-19860901-04. リンク
    4. [4]. Kasper Køhler Alsing, Helle Hjorth Johannesen, Rasmus Hvass Hansen, Jørgen Serup. Tattoo complications and magnetic resonance imaging: a comprehensive review of the literature. (Acta Radiologica, 2020). doi:10.1177/0284185120910427. リンク
    5. [5]. Kasper Køhler Alsing, Helle Hjorth Johannesen, Rasmus Hvass Hansen, M. Dirks, O. Olsen, Jørgen Serup. MR scanning, tattoo inks, and risk of thermal burn: An experimental study of iron oxide and organic pigments: Effect on temperature and magnetic behavior referenced to chemical analysis. (Skin Research and Technology, 2018). doi:10.1111/srt.12426. リンク
    6. [6]. Jørgen Serup, Kasper Køhler Alsing, O. Olsen, Christian Bender Koch, Rasmus Hvass Hansen. On the mechanism of painful burn sensation in tattoos on magnetic resonance imaging (MRI). Magnetic substances in tattoo inks used for permanent makeup (PMU) identified: Magnetite, goethite, and hematite. (Skin Research and Technology, 2023). doi:10.1111/srt.13281. リンク
    7. [7]. Valerie Lohner, Simon J. Enkirch, Elke Hattingen, Tony Stöcker, Monique M. B. Breteler. Safety of Tattoos, Permanent Make-Up, and Medical Implants in Population-Based 3T Magnetic Resonance Brain Imaging: The Rhineland Study. (Frontiers in Neurology, 2022). doi:10.3389/fneur.2022.795573. リンク
    8. [8]. U.S. Food and Drug Administration. Tattoos & Permanent Makeup: Fact Sheet. (U.S. Food and Drug Administration, 2024). リンク

    Related

    あわせて読みたい記事

    Consultation & Reservation

    まずはお気軽に
    ご相談ください

    カウンセリングでは、ご希望のデザインや不安な点を丁寧にお伺いします。 無理な勧誘は一切ございません。