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波長からR20法まで タトゥー除去の用語をやさしく引ける辞典
2026年8月24日

この辞典の使い方
タトゥー除去のカウンセリングでは、波長、フルエンス、ピコ秒といった言葉が当たり前のように出てきます。意味がわからないまま頷いてしまうと、あとで「あれは何だったのだろう」と不安が残ります。この記事は、そうした専門用語を分野ごとに引ける辞典です。各用語は短い定義と、やさしい言い換えに徹します。何回で消えるか、いくらかかるか、傷跡はどうかといった各論は、それぞれ別の記事で詳しく扱っています。
並び順は、光の言葉、機種の言葉、強さの言葉、治療の進め方、肌と色、経過の言葉、の順です。最初から読む必要はありません。カウンセリングで聞いた言葉、症例写真の説明で見かけた言葉を、目次から拾い読みしてください。最後のセクションには、用語を知っていると使える質問の例もまとめました。
光の言葉:波長・パルス幅・ナノ秒・ピコ秒
波長は、光の性質を決める「波の長さ」のことです。単位はnm(ナノメートル)で表します。タトゥー除去でよく用いられるレーザーには、532 nmと1,064 nmのNd:YAG、694 nmのQスイッチルビーレーザーがあります。ほかに755 nmのQスイッチアレキサンドライトレーザーも挙げられています[1]。波長が違うと光の届き方や色素への働き方が変わるため、カウンセリングではインクの色とあわせて説明されることが多い言葉です。
パルス幅は、1回の光を出している時間の長さです。ナノ秒は10億分の1秒、ピコ秒は1兆分の1秒を指します。Qスイッチは、ナノ秒ほどの短い光を作り出す仕組みの名前です[10]。ピコ秒レーザーはさらに短い光を出しますが、その作り方は機種によって異なります[10]。数字が小さいほど、より短い時間に光を凝縮して当てる、と考えてください。
面白いのは、機種名と実際のパルス幅が必ずしも一致しない点です。たとえばPicoSureという装置のFDA資料では、1,064 nmでは450〜900ピコ秒、532 nmでも450〜900ピコ秒ですが、755 nmでは7〜20ナノ秒と記載されています[2]。「ピコ」と名の付く機種でも、選ぶ波長によってはナノ秒で照射することがあるのです。機種名だけでなく、当日の波長とパルス幅を聞いてみる価値があります。
機種の言葉:Nd:YAG・ルビー・アレキサンドライト
Nd:YAG、ルビー、アレキサンドライトは、いずれもレーザーの光を生み出す結晶や素材の名前です。それぞれ出せる波長が決まっていて、Nd:YAGは1,064 nmと532 nm、ルビーは694 nm、アレキサンドライトは755 nmです[1]。カウンセリングで機種名が出たら、「その機種は何nmの光を出すのか」と考えると理解しやすくなります。
ピコ秒レーザーとQスイッチ(ナノ秒)レーザーの違いは、前のセクションで見たパルス幅の違いです。では、どちらが優れているのでしょうか。36件の研究(無作為化比較試験7件、非無作為化比較試験2件、症例集積研究27件)をまとめた系統的レビューがあります[9]。そのレビューでは、黒インクにはQスイッチNd:YAGとピコ秒レーザーの両方が安全かつ有効とされています[9]。ピコ秒レーザーの優位性が報告されているのは、青・緑・黄の色素についてです[9]。つまり「ピコ秒なら何でも一番」ではなく、色によって答えが変わります。機種名だけで良し悪しを判断しないことが、この辞典でいちばん覚えてほしいポイントです。
強さの言葉:フルエンス・スポットサイズ・出力
フルエンスは、皮膚の面積1 cm2あたりに当てるエネルギーの量です。単位はJ/cm2(ジュール毎平方センチメートル)で表します。シャワーにたとえると、同じ量のお湯でも、ノズルを絞れば一点に強く当たり、広げれば全体にやさしく当たります。フルエンスは「どれだけ絞って当てるか」を数字にしたものです。
ここで大事なのは、フルエンスとエネルギーは同じ意味ではないことです。エネルギーの単位はJ(ジュール)、出力の単位はW(ワット)で、物理的には別の量です[7]。FDAに提出されたレーザー装置の資料には、フルエンスの計算式として「エネルギー[J]÷(スポット半径[cm]の2乗×3.14)」が示されています[7]。スポットサイズとは照射する円の直径のことで、同じエネルギーでもスポットサイズが変わればJ/cm2の値は変わります[7]。「出力を上げます」と言われたときに、フルエンスとスポットサイズの両方を聞けると、説明の解像度がぐっと上がります。
治療の進め方の言葉:パス・R20法
パスとは、タトゥー全体をレーザーで1回なぞることです。R20法を検証した研究では、通常法を1回の来院で1パスとして、20分間隔で4パス行うR20法と比較しています[4]。「20」は、パスとパスの間にあける20分の待ち時間を指す数字です[4]。
R20法の元になった比較研究では、成人12人のタトゥー18件を左右に分け、片側を通常の1パス、もう片側を20分間隔の4パスで治療しました[4]。使ったのはQスイッチアレキサンドライトレーザーで、設定は755 nm、5.5 J/cm2、パルス幅100ナノ秒、スポットサイズ3 mmです[4]。3か月後の写真を盲検評価した結果、18件すべてでR20側のほうが良好でした(P<.01)[4]。一方でR20側は表皮の傷みが大きく、この小規模な研究の範囲では瘢痕は報告されませんでした[4]。
系統的レビューでも、R20法などの繰り返し照射は施術にかかる時間を短縮し得るとされています[9]。ただし同じレビューは、より明確な推奨のためには追加の無作為化比較試験が必要だとも結論づけています[9]。カウンセリングでこの言葉が出たら、「私のタトゥーと肌にこの方法が合う理由」を聞いてみてください。
肌と色の言葉:スキンタイプ・多色タトゥー・暗色化
Fitzpatrick skin type(フィッツパトリック・スキンタイプ)は、日光に対する反応のしやすさをもとに肌のタイプを分ける、本人の申告に基づく指標です[11]。もともとは白色皮膚の人を想定して作られたものさしです[11]。レビュー論文では、タトゥーの由来、色、重ね彫りの有無、そしてこのスキンタイプを理解することが、満足できる結果の可能性を高めると述べられています[1]。カウンセリングで肌の色を確認されるのは、このためです。
多色タトゥーは、複数の色のインクを使ったタトゥーのことです。ナノ秒レーザーについての総説では、多色タトゥーでは色素が残る可能性を事前に説明する必要があるとされています[5]。前のセクションで見たとおり、青・緑・黄ではピコ秒レーザーの優位性が報告されていますが[9]、色ごとに消えやすさが違うこと自体は、機種を問わず知っておきたい前提です。
暗色化(インクダークニング)は、レーザーを当てた色素が逆に濃く見えるようになる現象です。特に注意したいのがアートメイクです。アイライン、眉、リップラインのアートメイクは白色の金属化合物を含むことがあり、色素を標的にするレーザーで暗くなることが報告されています[6]。同じ報告では、CO2レーザーで表面を蒸散させる方法の症例において、アイラインとリップラインの改善が示され、副作用は紅斑、浮腫、漿液血性の排液に限られたとされています[6]。アートメイクの除去を考えている方は、予約時にその旨を必ずお伝えください。
経過の言葉:紅斑・水疱・色素沈着・色素脱失
治療後の経過説明にも、専門用語が並びます。紅斑は皮膚の赤み、浮腫はむくみ、水疱は水ぶくれ、点状出血は点々とした小さな内出血のことです。ピコ秒レーザーの系統的レビュー(ヒト試験6件・計160人を含む8件)では、痛み、色素沈着、色素脱失、水疱、一過性の紅斑・浮腫、点状出血が報告されています[3]。効果の面では、1〜10回の治療後に、69〜100%のタトゥーで70%を超える色素除去が報告されました[3]。ただし研究の多くは比較対照のない試験で、中〜高リスクのバイアスがあったと評価されています[3]。
色素沈着は、治療した部分の肌が周りより濃くなることです。色素脱失は反対に、白っぽく色が抜けることを指します。ナノ秒レーザーの総説でも、色素沈着、色素脱失、インクの暗色化は頻度のある有害事象として挙げられています[5]。瘢痕(きずあと)は、適切に治療された場合はまれとされる一方、起こり得るとも記載されています[5]。経過の言葉を知っておくと、治療後に肌の変化が出たとき、慌てずに状態を伝えられます。
用語を知ると、カウンセリングで何を聞けるか
ここまでの用語を知っていると、質問がぐっと具体的になります。たとえば「今日は何nmの波長を使いますか」「パルス幅はナノ秒ですか、ピコ秒ですか」「フルエンスとスポットサイズはどの設定ですか」。R20法の話が出たら「私の色と肌にこの方法を選ぶ理由」を聞けます。アートメイクなら「暗色化のリスクはどう考えますか」と切り出せます。質問の目的は医師を試すことではなく、自分のタトゥーに合わせた説明を引き出すことです。
この記事は用語の定義に徹しました。何回くらいで薄くなるのか、費用はどう決まるのか、傷跡やダウンタイムはどう経過するのか。そうした各論は、それぞれの詳しい記事で扱っています。あわせて読むと、カウンセリングの説明がほぼそのまま理解できるようになるはずです。個別のタトゥーで気になる点は、inklinicのカウンセリングでお気軽にご相談ください。この辞典の言葉が、そのまま会話の共通語になります。
よくある質問
フルエンスと出力は同じ意味ですか?
違います。フルエンスは面積あたりのエネルギー(J/cm2)で、同じエネルギーでもスポットサイズ(照射する円の大きさ)が変わると数値が変わります。米国FDAの機器資料にも、エネルギーとスポットサイズから計算する式が示されています。
ピコ秒レーザーならどの色のタトゥーでも一番よく消えますか?
色によります。系統的レビューでは、黒インクにはQスイッチNd:YAGとピコ秒レーザーの両方が安全かつ有効とされ、ピコ秒レーザーの優位性が報告されているのは青・緑・黄の色素についてです。
R20法とは何ですか?
20分の間隔をあけて同じ日に4回照射する方法です。成人12人・タトゥー18件の比較研究では、3か月後の評価で18件すべてで通常の1回照射より良好という結果でした。ただし小規模研究で、系統的レビューも追加の比較試験が必要としています。
アートメイクもタトゥーと同じレーザーで消せますか?
注意が必要です。アイラインや眉、リップラインのアートメイクは白色の金属化合物を含むことがあり、色素を狙うレーザーで逆に暗くなることが報告されています。適した方法は色素や部位で変わるため、予約時にアートメイクである旨をお伝えください。
参考文献
- [1]. Loren Hernandez, Noreen Mohsin, Fabio Stefano Frech, Isabella Dreyfuss, Ashley Vander Does, Keyvan Nouri. Laser tattoo removal: laser principles and an updated guide for clinicians. (Lasers in Medical Science, 2022). doi:10.1007/s10103-022-03576-2. リンク
- [2]. Cynosure, LLC. PicoSure Workstation 510(k) Summary K210226. (U.S. Food and Drug Administration, 2021). リンク
- [3]. Ofer Reiter, Lihi Atzmony, Lehavit Akerman, Assi Levi, Ruben Kershenovich, Moshe Lapidoth, Daniel Mimouni. Picosecond lasers for tattoo removal: a systematic review. (Lasers in Medical Science, 2016). doi:10.1007/s10103-016-2001-0. リンク
- [4]. Theodora Kossida, Dimitrios Rigopoulos, Andreas Katsambas, R. Rox Anderson. Optimal tattoo removal in a single laser session based on the method of repeated exposures. (Journal of the American Academy of Dermatology, 2012). doi:10.1016/j.jaad.2011.07.024. リンク
- [5]. Syrus Karsai. Removal of Tattoos by Q-Switched Nanosecond Lasers. (Current Problems in Dermatology, 2017). doi:10.1159/000450811. リンク
- [6]. Bridget E. McIlwee, Tina S. Alster. Treatment of Cosmetic Tattoos: A Review and Case Analysis. (Dermatologic Surgery, 2018). doi:10.1097/DSS.0000000000001572. リンク
- [7]. WON TECH Co., Ltd.. V-Laser 510(k) Summary K231054. (U.S. Food and Drug Administration, 2023). リンク
- [8]. Alia M. D. Alshammari, A. H. Alqarni, M. A. Aljasser, A. M. Alqahtani, L. A. Alhasson, J. D. M. et al.. Comparing the efficacy and safety of laser treatments in tattoo removal: A systematic review. (Journal of the American Academy of Dermatology, 2020). doi:10.1016/j.jaad.2020.07.101. リンク
- [9]. Pooja Gurnani, Natalie Williams, Ghadah AL-Hetheli, Olivia Chukwuma, Rebecca Roth, Francisco Fajardo, Keyvan Nouri. Comparing the efficacy and safety of laser treatments in tattoo removal: A systematic review. (Journal of the American Academy of Dermatology, 2022). doi:10.1016/j.jaad.2020.07.117. リンク
- [10]. Patrick J. McKean, Richard L. Cummings. Laser Tattoo Removal - StatPearls - NCBI Bookshelf. (StatPearls Publishing / NCBI Bookshelf, 2024). リンク
- [11]. Thomas B. Fitzpatrick. The Validity and Practicality of Sun-Reactive Skin Types I Through VI. (Archives of Dermatology, 1988). doi:10.1001/archderm.1988.01670060015008. リンク
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