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ピコレーザーのタトゥー除去効果は臨床試験でどこまで確かめられているか
2026年8月24日

ピコ秒という速さに何が期待されてきたか
タトゥー除去の案内では、ピコ秒レーザーという言葉をよく見かけます。1ピコ秒は1兆分の1秒で、ナノ秒レーザーより短い時間で光を当てる技術です。ナノ秒の長さは機種によって異なり、この記事で扱う試験でも10ナノ秒、20ナノ秒、50ナノ秒などの条件が使われています[1]。光を当てる時間が短いほどインクの粒が細かく砕け、少ない回数で消えると説明されることがよくあります。ところが、この記事で取り上げる1998年の試験では、電子顕微鏡で見たインク粒子の変化はピコ秒とナノ秒で似ていたと報告されています[1]。つまり「粒が細かく砕ける」という説明を、この試験の数字がそのまま裏付けているわけではありません。この記事では、宣伝文句ではなく一次文献の数字だけを頼りに、どこまでが確かでどこからが未確定かを見ていきます。
取り上げるのは、1998年から2026年までに査読を受けて発表された9本の研究です。この中には、同一タトゥー内で条件を比較した無作為化試験や比較試験に加えて、比較対象を置かない単群の前向き研究や症例集積も含まれます[2, 3, 4]。研究デザインが異なる9本について、それぞれの被験者数、評価方法、結果の数字をそのまま示します。結論を先に言えば、黒いタトゥーへの効果は複数の比較試験で裏付けられています。一方で、すべての条件でピコ秒が勝つわけではありません。どこまでが確かで、どこからが未確定なのかを、研究デザインの違いにも注意しながら見ていきます。
ピコ秒側が有利だった試験の数字
最も古い比較は1998年の試験です。黒色部を含む未治療のタトゥーを持つ16人・16個を対象に、同じタトゥーの中で35ピコ秒と10ナノ秒の1064 nmレーザーを撃ち分けました[1]。エネルギーは0.65 J/cm²にそろえ、4週間隔で計4回照射しています。治療内容を知らない評価者が写真で判定した結果、16個中12個でピコ秒側のほうが有意に明るくなりました[1]。ただし原著は、ピコ秒機がガウシアン型、ナノ秒機がマルチモード型とビームプロファイルも異なっていたと明記しており、この差をパルス幅だけの効果と言い切ることはできません[1]。ピコ秒の優位を示した最初期のデータとして、今も引用され続けている試験です。
2018年には、49人を対象にした前向き無作為化研究が発表されました[6]。各タトゥーを半分に分け、片側をピコ秒、反対側をナノ秒で治療する方法です。75%を超えて薄くなった割合は、ピコ秒側で33%、ナノ秒側で14%でした(P=0.008)[6]。黒または青の単色に限ると、ピコ秒側34%に対しナノ秒側9%と、差はさらにはっきりします[6]。治療に関与しない2人の医師が、最終照射の2か月後の写真を盲検で評価した結果です[6]。
直近では、755 nmアレキサンドライトレーザー同士を比べた2026年の無作為化試験があります[9]。黒または青のタトゥーを持つ30人に、3か月間隔で5回照射し、最終照射の6か月後まで追跡しました。10点満点のクリアランス評価の中央値は、ピコ秒側8点、ナノ秒側5点でした(P<0.0001)[9]。7点以上を満足できる結果と定義すると、ピコ秒側73.3%、ナノ秒側23.3%です[9]。完全に消えたのはピコ秒側の10%だけで、ナノ秒側では0%でした[9]。
差が出なかった試験も同じ重みで見る
一方で、差を認めなかった試験もあります。2017年の無作為化・単盲検試験では、黒色タトゥー30個を持つ21人を対象に、1064 nmのピコ秒とナノ秒を同一タトゥー内で比較しました[5]。6週間隔で2回照射した後の平均クリアランスに、両群で統計学的な差はありませんでした(P=1.00)[5]。照射回数が2回と少ない試験ではあります。それでも、条件をそろえた比較で差が出なかった事実は軽視できません。
2022年の前向き自己対照研究でも、似た結果が出ています。23人・30個のタトゥーを、同一タトゥー内でピコ秒Nd:YAGレーザーとナノ秒ルビーレーザーに無作為に割り付け、平均5.5回照射しました[8]。黒いタトゥー24個では、ピコ秒1064 nm側の平均クリアランスが高い傾向はあったものの、統計学的に有意な差ではありませんでした[8]。色付きの部分でも、両方式の差は認められていません[8]。
つまり、ピコ秒がナノ秒に勝った試験と、差が出なかった試験の両方が存在します。結果を分けた要因としては、波長の違い、照射回数、機種の違いが挙げられますが、どれが決定的かはまだ確定していません。ピコ秒なら常に少ない回数で消えるという一般論は、現時点の臨床データでは支持されないのが正確なところです。これは仕組みの解説が誤りだという意味ではなく、理屈のうえで期待される差を、臨床試験がまだ一貫して裏付けていないという意味です。
色で結果が変わる、波長との相性
タトゥー除去の効果を語るとき、インクの色を抜きには考えられません。1998年の試験では、1064 nmのレーザーを4回照射しても、赤、紫、青、橙、黄はパルス幅にかかわらず消えませんでした[1]。同じ原著では、緑を含む部分の一部で薄くなった例も報告されています[1]。1064 nmは一般に黒への吸収が高い波長とされますが、この試験自体が色ごとの吸収特性を直接検証したわけではありません。それでも、ピコ秒かナノ秒かという速さの問題より先に、波長と色の組み合わせが結果を左右する可能性を示すデータです。機種を選ぶうえでの出発点になる事実です。
青と緑については、755 nmのピコ秒アレキサンドライトレーザーで良好な報告があります。2012年の症例集積では、青または緑を含むタトゥー12個を持つ10人に1回または2回照射したところ、全12個で青・緑部分が75%以上薄くなりました[2]。3分の2超は100%に近い消退に至ったと報告されています[2]。ただしこの報告には比較群がなく、10回以上の治療歴があるタトゥーも含まれるなど、条件はそろっていません。数字は有望ですが、無作為化試験より信頼度は一段下がります。
波長を撃ち分ける方式のデータもあります。532 nmと1064 nmを併せ持つピコ秒レーザーの前向き研究では、治療を完了した21人・31個で、平均6.5回の照射後の全体クリアランスが79%でした[4]。黒は平均92%薄くなりました[4]。赤を含む6個では、赤部分が平均4.5回の照射で平均80%薄くなっています[4]。アジア人11人・37個の比較では、黒18個、赤6個、緑5個、その他8個の内訳で、黒には1064 nmピコ秒、赤と緑には532 nmピコ秒の成績が他の条件より有意に高いと報告されました[7]。一方で多色タトゥーは難しく、2018年の研究では多色5個のうち、75%超の改善に達したのは両方式を通じて1個だけでした[6]。
除去率という数字はどう測られているのか
臨床研究の「75%薄くなった」という数字は、機械が自動で測ったものではありません。多くの試験では、治療前後の標準写真を、治療内容を知らない医師が段階評価します。たとえば2017年の試験は0〜100%を4分割した尺度を使い[5]、2022年の研究は25%未満から94%超までの5段階でした[8]。2026年の試験は10点満点のVASという物差しを使っています[9]。評価者を盲検にすることで思い込みの影響を減らしていますが、あくまで見た目の判定です。研究ごとに尺度が違う点にも注意が必要です。
尺度の上限にも落とし穴があります。2012年の前向き研究では、755 nmピコ秒レーザーを最大10回照射し、治療を完了した15人中12人の全員が75%超のクリアランスに達しました[3]。12人中9人は2〜4回で75%超に到達し、75%超に要した平均回数は4.25回です[3]。ただしこの研究の評価尺度は「75%以上」が上限で、80%消えたのか99%消えたのかは区別できません[3]。「全員が75%超」という数字だけでは、完全に消えたかどうかまでは分からないのです。
痛みと副作用、数字は両方向を向いている
痛みについては、ピコ秒側が軽いという結果が複数あります。2017年の試験では、10点満点の痛みスコアがピコ秒群3.8に対しナノ秒群7.9と、大きな差がつきました(P<0.001)[5]。2022年の研究でも、平均はナノ秒5.8、ピコ秒1064 nmで4.9、ピコ秒532 nmで4.0と、ピコ秒側が低い値でした[8]。タトゥー除去は複数回の通院が前提になります。毎回の痛みが軽いことは、治療の続けやすさに直接関わるポイントです。
色素の変化については、結果が一方向ではありません。アジア人を対象にした比較では、炎症後の色素増加が532 nmナノ秒で35.1%、532 nmピコ秒で24.3%、1064 nmナノ秒で27.0%、1064 nmピコ秒で21.6%と、ピコ秒側が低めでした[7]。ところが2026年の755 nm比較では、色素増加はピコ秒側21.33%、ナノ秒側12%と、逆にピコ秒側で多く出ています(P=0.043)[9]。2022年の研究では、軽い質感の変化や色素増加が30個中数例ずつ両方式で報告された一方、低色素沈着はナノ秒ルビー側でのみ認められ、瘢痕はありませんでした[8]。副作用が少ないと一括りに言うことはできず、波長や肌質ごとに見る必要があります。
これらの研究に共通する限界
ここまで挙げた試験の被験者数は、10人から49人の範囲です[2, 6]。この規模では、統計的な検出力に限りがあります。追跡期間も、最終照射の2か月後[6]、2〜3か月後[8]、3か月後[7]、長いものでも6か月後[9]までの評価が中心です。数年単位でタトゥーの見た目がどう変わるかは、これらの試験の範囲の外にあります。小規模な試験が同じ方向を指すことで信頼度は上がりますが、1本の論文の数字を絶対視しない読み方が大切です。
もう1つの注意点は、インクの中身です。ここで取り上げた9本の研究の記述には、使用されたタトゥーインクの成分分析は含まれていません。同じ「黒」や「赤」という色の呼び方でも、製品によって成分が異なる可能性があり、その違いが結果にどう影響するかは、これらの研究だけでは分かりません。完了の定義や照射条件も研究ごとに違うため、回数の数字を横並びで比べることにも慎重さが要ります。カウンセリングで示される回数の目安は、こうした幅を含んだ見積もりだと理解しておくと、数字に振り回されずに済みます。
数字を自分の除去計画にどう生かすか
確かめられていることを並べ直すと、こうなります。黒いタトゥーに対するピコ秒レーザーの有効性は、盲検評価つきの複数の試験で示されています[1, 6, 9]。痛みはピコ秒側が軽いという結果が繰り返し出ています[5, 8]。一方で、ナノ秒との差が出なかった試験もあり[5, 8]、色付きのタトゥーは波長との組み合わせで結果が大きく変わります[1, 2, 7]。効果を一言で断定できないのは、誠実な研究ほど条件を細かく分けて報告しているからです。
ご自身のタトゥーが何回で、どこまで薄くなるかは、色、インクの深さ、これまでの治療歴によって変わります[1, 8]。この個人差だけは、どの研究も埋めてくれません。inklinicでは、医師が肌とタトゥーの状態を実際に診たうえで、使う波長と照射の計画をご提案しています。除去を検討している方は、まずカウンセリングで、ご自身のタトゥーがどのタイプに当たるのかを確かめてみてください。研究の数字は判断の道具であり、それをご自身の条件に当てはめる作業は、診察の場で行うのが確実です。
よくある質問
ピコレーザーはナノ秒レーザーより必ず効果が高いのですか?
試験によって結果が分かれています。755 nm同士の比較や49人の無作為化研究ではピコ秒側が優位でしたが、1064 nmで2回照射した無作為化試験では差がありませんでした。波長や照射回数、機種によって結果は変わります。
タトゥーは何回の照射で消えますか?
色、インクの深さ、施術方法、治療歴によって大きく変わります。臨床研究では、黒中心のタトゥーが平均4.25回で75%超に達した報告や、平均6.5回で全体79%薄くなった報告があります。ただし完全に消える回数を事前に断定することはできません。診察で個別の見通しをご案内します。
ピコレーザーの痛みはどのくらいですか?
10点満点の痛みスコアで、ピコ秒3.8に対しナノ秒7.9という無作為化試験の結果があります。別の研究でも、ピコ秒側は4.0〜4.9とナノ秒側の5.8より低い値でした。感じ方には個人差があります。
色のついたタトゥーも消せますか?
波長との組み合わせ次第です。青や緑は755 nmのピコ秒レーザーで、赤は532 nmで良好な報告があります。一方、多色のタトゥーは黒単色より難しいという結果があり、診察で色ごとの見通しを確認するのが確実です。
参考文献
- [1]. E. Victor Ross, George Naseef, Charles Lin, et al.. Comparison of Responses of Tattoos to Picosecond and Nanosecond Q-Switched Neodymium:YAG Lasers. (Archives of Dermatology, 1998). doi:10.1001/archderm.134.2.167. リンク
- [2]. Jeremy A. Brauer, Kavitha K. Reddy, Robert Anolik, et al.. Successful and Rapid Treatment of Blue and Green Tattoo Pigment With a Novel Picosecond Laser. (Archives of Dermatology, 2012). doi:10.1001/archdermatol.2012.901. リンク
- [3]. Nazanin Saedi, Andrei Metelitsa, Kathleen Petrell, Kenneth A. Arndt, Jeffrey S. Dover. Treatment of Tattoos With a Picosecond Alexandrite Laser: A Prospective Trial. (Archives of Dermatology, 2012). doi:10.1001/archdermatol.2012.2894. リンク
- [4]. Eric F. Bernstein, Kevin T. Schomacker, Lisa D. Basilavecchio, Jessica M. Plugis, Jayant D. Bhawalkar. A Novel Dual-Wavelength, Nd:YAG, Picosecond-Domain Laser Safely and Effectively Removes Multicolor Tattoos. (Lasers in Surgery and Medicine, 2015). doi:10.1002/lsm.22391. リンク
- [5]. F. Pinto, S. Große-Büning, S. Karsai, et al.. Neodymium-doped Yttrium Aluminium Garnet (Nd:YAG) 1064-nm Picosecond Laser vs. Nd:YAG 1064-nm Nanosecond Laser in Tattoo Removal: A Randomized Controlled Single-Blind Clinical Trial. (British Journal of Dermatology, 2017). doi:10.1111/bjd.14962. リンク
- [6]. A. Lorgeou, Y. Perrillat, N. Gral, S. Lagrange, J.-P. Lacour, T. Passeron. Comparison of Two Picosecond Lasers to a Nanosecond Laser for Treating Tattoos: A Prospective Randomized Study on 49 Patients. (Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology, 2018). doi:10.1111/jdv.14492. リンク
- [7]. Taro Kono, Henry H. L. Chan, William F. Groff, Kotaro Imagawa, Ushio Hanai, Tadashi Akamatsu. Prospective Comparison Study of 532/1064 nm Picosecond Laser vs 532/1064 nm Nanosecond Laser in the Treatment of Professional Tattoos in Asians. (Laser Therapy, 2020). doi:10.5978/islsm.20-OR-07. リンク
- [8]. W. Bäumler, C. Breu, B. Philipp, B. Haslböck, M. Berneburg, K. T. Weiß. The Efficacy and the Adverse Reactions of Laser-Assisted Tattoo Removal: A Prospective Split Study Using Nanosecond and Picosecond Lasers. (Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology, 2022). doi:10.1111/jdv.17674. リンク
- [9]. Gang Ma, Yue Han, Linting Huang, Ying Shang, Xiaoxi Lin, Pinru Wu. 755-nm Picosecond vs. Nanosecond Alexandrite Lasers for Tattoo Removal: A Randomized, Split-Tattoo Clinical Trial. (Plastic and Reconstructive Surgery, 2026). doi:10.1097/PRS.0000000000012958. リンク
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