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レーザーでのタトゥー除去、砕けたインクの分解産物はどうなるのか
2026年10月12日

「砕く」と「分解する」は別の出来事
レーザーのタトゥー除去では、光で顔料を細かく砕き、体内での処理を促します。研究では、粒子の破砕に加えて化学的な変化も調べられています。光と熱を受けた顔料は、物理的に割れるだけでなく、分子そのものが切れて別の物質に変わることがあります[4, 5]。砕けるのは、角砂糖を砕いても砂糖のままであるような変化です。分解は、砂糖が焦げてカラメルになるような変化で、中身が別物になります。
この記事では、この2つを分けて見ていきます。前半では、粒子の大きさがどこまで変わるのかを、黒色インクの研究から説明します。中盤では、アゾ顔料、フタロシアニン青、二酸化チタンという代表的な顔料ごとに、分解で何が生じるのかを一次論文の数字つきで示します。後半では、顔料が体のどこへ運ばれるのかを、ヒトとマウスの研究から説明します。なお、分解に関する研究の多くは、顔料を液体に分散させた試験管内の実験です。何を測った数字なのかを、そのつど添えていきます。
黒い粒はどこまで小さくなるのか
黒色インクの主成分はカーボンブラックという炭素の微粒子です。Regensburg大学の2013年の博士論文では、このインクにQスイッチNd:YAGレーザーを照射しました[3]。粒子は透過電子顕微鏡と動的光散乱法で観察し、別途、分光測定でも調べています[3]。透過電子顕微鏡と動的光散乱法では、カーボンブラックのナノ粒子の90%が破砕されたことが確認されました[3]。分光測定では、粒径が照射前のおよそ50〜70 nmから、照射後はおよそ7 nmへ下がったことが示されています[3]。1 nmは1 mmの100万分の1です。元の粒の10分の1ほどまで小さくなった計算になります。
別の研究では、異なる結果も報告されています。1998年の研究では、未治療の黒色タトゥーがある16人を対象に、同じタトゥーの別の部位へ35ピコ秒と10ナノ秒のQスイッチNd:YAGレーザーを、4週間隔で計4回照射しました[1]。16件中12件でピコ秒照射部のほうが有意に薄くなりました[1]。同じ研究の試験管内実験では、異なる変化が見られました。インクの懸濁液では、どちらのパルス幅でも粒子サイズの増大、電子密度の低下、インクの光学濃度の低下が観察されました[1]。
著者らはここから、黒色インクが薄くなる主な理由は粒子が細かくなることではなく、レーザーでインクの光学的性質が変わることだと結論しています[1]。つまり「粒が小さくなって消える」だけではなく、「黒く見えにくい粒に変わる」仕組みも働いているということです。粒径が下がったという報告と、粒子サイズが増大したという報告が並ぶのは、測り方や条件の違いによるものです。黒色インクひとつ取っても、起きていることは単純な破砕ではありません。
アゾ顔料が切れると何が残るのか
赤、黄、オレンジなどの色に使われる顔料の一つがアゾ顔料です。アゾ顔料は、2つの窒素原子が二重結合でつながった「アゾ結合」を骨組みに持っています。鎖の真ん中にある留め具のような部分で、ここが切れると分子は2つに分かれます。2004年のPhotochemistry and Photobiology誌の研究では、広く使われる2種類のアゾ化合物を懸濁液の中でレーザー照射し、定量HPLCと質量分析で中身を調べました[4]。
結果として、高強度のレーザーでアゾ化合物が切断され、2-methyl-5-nitroaniline、2,5-dichloroaniline、4-nitrotolueneなどの分解生成物が増加しました[4]。著者らは、このうち一部を毒性または発がん性を持つ化合物として記載しています[4]。あわせて、照射前のタトゥー色材にもこれらの化合物がすでに含まれていたことも報告されています[4]。レーザーが新しく作るだけではなく、もともと少量あったものが照射で増える、という読み方になります。
この研究は、皮膚内ではなく、液体に分散させた顔料を対象にしています。皮膚内では顔料の量も、熱の逃げ方も、試験管とは違います。この実験では、アゾ顔料の粒子の破砕に加え、分子が切れて別の化合物になることが示されています。赤や黄色が入ったタトゥーの除去では、こうした性質も含めて診察時に照射条件を決めます。
青い顔料とシアン化水素の実験
青や緑に使われる銅フタロシアニンは、銅を中心に大きな環状の分子が囲む構造をしています。2015年のScientific Reports誌の研究では、この顔料の懸濁液にルビーレーザーを照射し、動的ヘッドスペースGC/MSと二次元GC-飛行時間型MSで分析しました[5]。照射量に応じて、1,2-benzene dicarbonitrile、benzonitrile、benzene、そしてhydrogen cyanide(シアン化水素、HCN)が主な断片化生成物として検出されました[5]。環状構造が壊れ、小さな分子が生じる変化です。
数字も報告されています。0.2〜2.5 mg/mLの顔料懸濁液では、生成したHCNはおよそ0.2〜1.1 mMでした[5]。著者らはヒトHaCaT細胞を使った実験も行いました。その結果、1 mM以上のシアン化物で細胞内ATP量が有意に低下しています[5]。濃い懸濁液での生成量の上限が、細胞に影響が出る濃度に重なっていたということです。
ただし、この数字は顔料を液体に分散させた試験管内の条件で得られたものです[5]。皮膚の中にある顔料の量、周囲の組織による希釈、照射条件は、この実験と同じではありません。原著も、皮膚内で生じた分解生成物のゆくえと長期的な影響は分かっていないと述べています[5]。青や緑の顔料にはこうした化学変化が起こるため、医師は色と部位を確認して照射を計画します。

白い二酸化チタンは別の変わり方をする
白や淡い色を作るために、タトゥーインクには二酸化チタンがよく使われます。日焼け止めや白い絵の具にも入っている、身近な白色顔料です。この顔料は、アゾ顔料のように分子が切れて小さな化合物に変わるタイプではありません。2001年の研究では、レーザー治療後に生検した20個のタトゥーを調べ、7個は薄くなり、9個は変化せず、4個は濃くなっていました[2]。そして、二酸化チタンの存在は治療反応が悪いことと有意に関連していました[2]。
同じ研究では、5%二酸化チタン配合のクリームにQスイッチNd:YAGレーザーを照射する実験も行われました。照射強度は7 J/cm2で、白色から青黒色への色変化が即時に起きています[2]。著者らは、高強度レーザーでチタンがTi4+からTi3+へ還元され得るという既存の知見を、この色変化の仮説として挙げています[2]。
2025年のArchives of Toxicology誌の研究は、黄色顔料との組み合わせを調べました。Pigment Yellow 14、74、65、二酸化チタン、その混合物、市販インクを対象に、532 nmのQスイッチNd:YAGレーザーで照射しています[6]。照射後の試料からは1,3-butadiyne、benzene、tolueneが共通して検出され、乾燥インクでは2-propenoic acid-ethyl ester、methyl methacrylate、styreneも見つかりました[6]。二酸化チタンを含む系では粒径の増大や凝集が観察され、著者らは粒子の形態から、加熱や融解が関与した可能性を考察しています[6]。検出された揮発性の生成物は二酸化チタン単独ではなく、黄色顔料や混合物、市販インクを照射した系の結果です[6]。著者らは、検出された揮発性生成物が顔料の分解だけでなく、不純物や結合剤、溶媒、添加剤に由来する可能性もあると述べています[6]。そのため、黄色顔料が必ず切れて分解するとは言い切れません。白では粒径や形態が変化し、加熱や融解の関与が推定された一方、黄色を含む系では複数の由来が混ざった分解生成物が検出された、と理解するのが正確です。
顔料は体のどこへ運ばれるのか
2017年のScientific Reports誌の研究は、ヒト遺体4例のタトゥー皮膚と所属リンパ節を調べました。分析には、シンクロトロンX線蛍光分析や質量分析を用いています[7]。その結果、皮膚から所属リンパ節へ、有機顔料、重金属、二酸化チタンが同時に移行していることが示されました[7]。有機顔料は最も広い粒径範囲を持ち、そのうちより小さい粒子がリンパ節へ優先的に到達していました[7]。粒子は血液やリンパ液で受動的に運ばれるか、免疫細胞に食べられたあとで所属リンパ節に沈着すると説明されています[7]。
動物でも調べられています。同じ2017年のDermatology誌の研究では、市販の黒色または赤色インクで背中全体にタトゥーを入れたマウスを1年後に調べました[8]。群は黒色10匹、赤色10匹、未処置の対照5匹です[8]。透過電子顕微鏡で、両方のタトゥー群の皮膚とリンパ節に加え、肝臓のクッパー細胞の中に顔料の沈着が確認されました[8]。脾臓、腎臓、肺では検出されていません[8]。クッパー細胞は肝臓の免疫細胞で、血液に乗った異物を捕まえる役目を持っています。
この2つの研究は、どちらもレーザー照射前の通常のタトゥー顔料を追ったものです[7, 8]。レーザーで生じた粒子だけを別に追跡した研究ではありません。ですから「砕けた粒子がリンパ節へ運ばれる」と断定する直接の証拠ではなく、「顔料はもともとリンパ節や肝臓へ届く性質がある」ことを示した研究として読むのが正確です。有機顔料については、小さい粒子ほどリンパ節へ届きやすいという所見があり、除去後の粒子の行き先を考えるときの手がかりになります[7]。
この研究を除去にどう活かすか
ここまでの研究をまとめると、レーザー除去で顔料に起きることは色によって違います。黒は粒が小さくなるか、光を吸いにくい粒に変わります[1, 3]。赤や黄のアゾ顔料と青のフタロシアニンは、分子が切れて別の化合物になります[4, 5]。白の二酸化チタンでは色の黒ずみが報告され、別の実験では粒径や形態の変化から加熱・融解の関与が推定されています[2, 6]。そして有機顔料は、もともと小さいものほどリンパ節へ届きやすい性質があります[7]。分解生成物の研究はいずれも試験管内の条件で得られたもので、皮膚の中で同じ量が生じるかは、その実験が測った範囲の外にあります[4, 5, 6]。
除去の計画は、医師が色・部位・肌の状態を確認したうえで立てます。inklinicでは、inklinic院長の須賀公佑(医師・認定産業医)の監修のもと、医師の診察を受けたうえでレーザー除去を行う体制をとっています。カウンセリングでは、どの色が入っているか、白や淡い色が混ざっていないか、過去に照射歴があるかをお聞きします。ピコ秒とナノ秒を比べた研究で16件中12件でピコ秒のほうが薄くなった結果[1]も、照射条件を考える材料のひとつです。
タトゥーの色や、含まれている顔料の種類に心当たりがある方は、予約時にお伝えください。分からない場合でも、診察で見たうえでご案内します。顔料の種類によって起こり得る変化を確認し、納得したうえで除去を始めましょう。

よくある質問
レーザーを当てるとタトゥーの顔料はどのくらい小さくなりますか?
カーボンブラックのインクをQスイッチNd:YAGレーザーで照射した試験管内の研究では、粒子の90%が破砕され、粒径はおよそ50〜70 nmからおよそ7 nmへ下がりました。一方で、別の研究では粒子サイズの増大と光学的性質の変化が主な薄色化の仕組みだと結論しており、顔料や条件で結果は異なります。
顔料が砕けるのと、分解するのは何が違うのですか?
砕けるのは、粒が小さくなるだけで中身の分子は同じままの変化です。分解は、光と熱で分子の結合そのものが切れ、元とは別の化合物に変わる変化です。アゾ顔料やフタロシアニン青では、照射後にアニリン類やベンゼン、シアン化水素などが試験管内で検出されています。
砕けた粒子はリンパ節や肝臓へ運ばれるのですか?
ヒト遺体の研究では、レーザー照射前の通常のタトゥー顔料が皮膚から所属リンパ節へ移行していました。マウスの研究ではタトゥー後1年で肝臓のクッパー細胞にも顔料が見つかっています。いずれもレーザー後の粒子だけを追いかけた研究ではありません。
インクの色によって除去のしやすさは変わりますか?
レーザー治療後に生検した20個のタトゥーを調べた研究では、7個が薄くなり、9個が変化せず、4個が濃くなりました。二酸化チタンを含むタトゥーは反応が悪いことと有意に関連していました。白や淡い色が混ざるタトゥーは、予約時にお伝えください。
参考文献
- [1]. E. Victor Ross, George Naseef, Charles Lin, Michael Kelly, Norm Michaud, Thomas J. Flotte, Jill Raythen, R. Rox Anderson. Comparison of Responses of Tattoos to Picosecond and Nanosecond Q-Switched Neodymium:YAG Lasers. (Archives of Dermatology, 1998). doi:10.1001/archderm.134.2.167. リンク
- [2]. E. Victor Ross, S. Yashar, N. Michaud, R. Fitzpatrick, R. Geronemus, W. D. Tope, R. R. Anderson. Tattoo Darkening and Nonresponse After Laser Treatment: A Possible Role for Titanium Dioxide. (Archives of Dermatology, 2001). doi:10.1001/archderm.137.1.33. リンク
- [3]. Karin Lehner. Analysis of black tattoo inks: ingredients, interaction with light and effects on cellular systems. (University of Regensburg, 2013). doi:10.5283/epub.23795. リンク
- [4]. Rudolf Vasold, Natascha Naarmann, Heidi Ulrich, Daniela Fischer, Burkhard König, Michael Landthaler, Wolfgang Bäumler. Tattoo pigments are cleaved by laser light: the chemical analysis in vitro provide evidence for hazardous compounds. (Photochemistry and Photobiology, 2004). doi:10.1562/2004-05-17-RA-170. リンク
- [5]. Ines Schreiver, Christoph Hutzler, Peter Laux, Hans-Peter Berlien, Andreas Luch. Formation of highly toxic hydrogen cyanide upon ruby laser irradiation of the tattoo pigment phthalocyanine blue. (Scientific Reports, 2015). doi:10.1038/srep12915. リンク
- [6]. Batool A. Aljubran, Kirstin E. Ross, Ula Alexander, Claire E. Lenehan. Challenges in laser tattoo removal: the impact of titanium dioxide on photodegradation of yellow inks. (Archives of Toxicology, 2025). doi:10.1007/s00204-025-03989-2. リンク
- [7]. Ines Schreiver, Bernhard Hesse, Christian Seim, Hiram Castillo-Michel, Julie Villanova, Peter Laux, Nadine Dreiack, Randolf Penning, Remi Tucoulou, Marine Cotte, Andreas Luch. Synchrotron-based ν-XRF mapping and μ-FTIR microscopy enable to look into the fate and effects of tattoo pigments in human skin. (Scientific Reports, 2017). doi:10.1038/s41598-017-11721-z. リンク
- [8]. Mitra Sepehri, Tobias Sejersen, Klaus Qvortrup, Catharina M. Lerche, Jørgen Serup. Tattoo Pigments Are Observed in the Kupffer Cells of the Liver Indicating Blood-Borne Distribution of Tattoo Ink. (Dermatology, 2017). doi:10.1159/000468149. リンク
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