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    タバコを吸うとタトゥー除去の回数は増える?研究データで確かめる

    2026年10月19日

    Medical ColumnTokyo Ueno
    タバコを吸うとタトゥー除去の回数は増える?研究データで確かめる

    喫煙と除去の成績を直接調べた研究

    タバコとレーザーでのタトゥー除去の関係を正面から扱った研究として、2012年にイタリアの医師らが発表した論文があります[1]。ミラノの紹介施設で、1995年1月から2010年12月までに受診した患者を順番に登録し、その後の経過を追いました[1]。登録された397人のうち、352人が解析の対象です[1]。

    この研究は「前向きコホート研究」という形をとっています。コホートとは、同じ条件で集めた人のグループのことです。過去のカルテをさかのぼって調べる方式ではなく、登録した時点から先の経過を記録していく方式です。全員を同じ施術者が担当し、QスイッチNd:YAGレーザー(波長1064nmと532nm)か、アレキサンドライトレーザー(755nm)で治療しました[1]。施術の間隔は6週間以上でした[1]。

    ただし、喫煙する人としない人を研究者が振り分けたわけではありません。もともとタバコを吸っていた人と吸っていなかった人を比べた「観察研究」です[1]。この点が、結果の受け止め方に大きく関わってきます。次の節で数字を見たあと、その理由を説明します。

    研究の流れを示す横長のタイムライン図。左端に「1995年1月 登録開始」、右端に「2010年12月 登録終了」。その下に「登録397人 → 解析352人」の矢印

    10回の施術後に見えた成功率の差

    この研究では、タトゥーが除去され、副作用が一時的な色の抜けや黒ずみだけにとどまった場合を「成功」と決めていました[1]。10回の施術を終えた時点で成功に届いた人の累積割合は、非喫煙者167人で75.2%、喫煙者185人で22.8%でした[1]。累積割合とは、1回目から10回目までに成功した人を足し上げた割合のことです。

    研究では、インクの色、密度、面積、タトゥーを入れてからの年数、部位、施術の間隔、黒ずみの有無もあわせて計算に入れています[1]。そのうえで、非喫煙者を喫煙者と比べた成功のハザード比は3.24(95%信頼区間2.38〜4.42)でした[1]。これは、まだ成功に至っていない人がその後成功に至る率を比べた指標です。必要な回数や期間が3.24分の1になるという意味ではありません。

    一つ注意したいのは、この研究が「喫煙者は平均で何回多く必要だったか」という数字を出していない点です[1]。比べているのは、決まった回数までに成功した人の割合です。「喫煙者は回数が増える」という言い方をよく見かけますが、研究が直接示したのは「同じ回数で成功に届いた人が少なかった」という結果です。

    2本の棒グラフ。左の棒「非喫煙者(167人)」を75.2%、右の棒「喫煙者(185人)」を22.8%の高さで描く。縦軸は「10回施術後の累積成功率(%)」で0〜

    関連があっても「原因」と言い切れない理由

    観察研究では、研究者がタバコを吸うかどうかを決めていません。もとの習慣でグループを分けて比べます[4]。そのため、はっきりした差が出たとしても、説明は「喫煙が原因」だけではありません。偶然、調べ方の偏り、原因と結果が逆向きになっている場合、そして「交絡」という説明も考えられます[4]。

    交絡とは、喫煙とも関わりがあり、除去の成績にも影響する第三の要因が、見かけの差を生んでしまうことです[4]。たとえば夏はアイスがよく売れ、水の事故も増えます。けれども、アイスが事故を起こすわけではありません。間に「暑さ」という共通の要因があるからです。交絡は、本当の影響を大きく見せることも、小さく見せることもあります[4]。

    喫煙の有無をくじ引きで決める無作為化比較試験なら、わかっている要因もわかっていない要因も、両方のグループに均等に散らばります[4]。観察研究には、その保証がありません[4]。2012年の研究は多くの要因を計算に入れていますが、それでも著者自身が「独立した研究での確認が必要」と書いています[1]。

    交絡を説明する三角形の図。左下に「喫煙」、右下に「除去の成績」、頂点に「第三の要因(例:生活習慣、通院の続けやすさ など)」を置く。左下から右下へ点線の矢印に「

    除去の回数を左右するとわかっている条件

    喫煙以外にも、除去の回数に関わる条件はいくつも報告されています。2025年の研究では、黒いタトゥーを完全に除去した18〜62歳の116人について、755nmのピコ秒レーザーでの治療回数を記録しました[2]。平均は6回で、少ない人は2回、多い人は20回でした[2]。解析ではインクの密度との関係がもっとも強く、ほかの条件を調整した推定平均は低密度で3.2回、高密度で9.0回でした[2]。

    同じ調整をした推定平均は、点描が4.4回、線が6.9回、両方が混ざったものが7.0回でした[2]。部位では、胸部や背部などの上部体幹が4.3回、手・指が7.8回です[2]。一方、年齢、性別、肌のタイプ、タトゥーの大きさは、このデータでは回数にはっきりした影響を示していません[2]。インクがどれだけ詰まっているかが、まず大きな分かれ目になるということです。

    2026年には、イスラエルとアルバニアの施設で治療した成人111人を振り返った研究も出ています[3]。QスイッチNd:YAGレーザーで平均2.5±1.55回施術したあとの除去率を写真で比べると、腕や脚に比べて体幹は16.3ポイント、頭や首は16.1ポイント高い結果でした[3]。なお、111人中44人(40%)には別の種類のレーザーも同じ日に追加されています[3]。

    青い手袋の医師が診察灯の下で上腕の黒塗りタトゥーの皮膚状態を指で確かめる様子

    喫煙者と非喫煙者の背景の違いが結果に入り込む

    前の節の条件を思い出してください。もし喫煙者のグループに、密度の高いタトゥーや手指のタトゥーが多く含まれていたら、成功率の差の一部はそちらで説明されることになります。だからこそ2012年の研究は、色、密度、面積、年数、部位、施術の間隔を計算に入れて比べました[1]。タトゥーそのものの条件については、一定の配慮がされているわけです。

    それでも、計算に入れていない要因は残ります。観察研究では、そうした要因が両グループに均等に分かれている保証がないからです[4]。たとえば、通院を予定どおり続けやすいかどうかや、ほかの生活習慣がグループの間で違っていれば、それも結果に影響しうる要因になります。喫煙の量や、治療中に禁煙したかどうかといった細かな違いも、研究の数字には表れていません。

    こうした事情から、「喫煙者のグループで成功率が低かった」ことと「喫煙が成功率を下げた」ことは、同じ意味ではありません。前者は研究で示された事実です。後者を確かめるには、別の研究での確認が必要です[1]。喫煙者の方は、この違いを知ったうえで、数字を自分ごととして受け止めていただくのがよいと考えます。

    左右2列の比較図。左列「喫煙者グループ」、右列「非喫煙者グループ」。中央に「研究で計算に入れた条件」として、色・密度・面積・入れてからの年数・部位・施術間隔のア

    ほかの研究では喫煙はどう扱われているか

    この記事で紹介した喫煙のデータは、2012年の研究によるものです[1]。前の節で取り上げた2025年と2026年の研究は、回数や除去率に関わる条件を詳しく調べていますが、喫煙は解析の項目に含めていません[2, 3]。喫煙と除去の成績の関係は、多くの研究で繰り返し示された話ではなく、1本の研究が出した結果だと受け止めてください。

    研究の時代や機器も違います。2012年の研究は1995年から2010年の患者を対象に、Qスイッチレーザーとアレキサンドライトレーザーで治療していました[1]。一方、2025年の研究では、755nmのピコ秒レーザーが使われています[2]。どのレーザーを使うかは、タトゥーの色や状態を見て医師が判断しますので、診察の際にご相談ください。

    診療台のシーツに置かれたレーザー照射ハンドピースと、ステンレストレー上の保護ゴーグル

    禁煙と体の回復について、医師として伝えられること

    禁煙と体の回復の関係は、手術の分野で研究が進んでいます。手術前の禁煙を扱った2011年のメタ解析では、無作為化比較試験6件をまとめると、禁煙の取り組みで術後合併症のリスクが41%下がっていました(95%信頼区間15〜59%)[5]。メタ解析とは、複数の研究結果をまとめて計算し直す方法です。禁煙期間が4週間以上の試験では、短い試験より効果が大きかったと報告されています[5]。

    観察研究15件も含まれており、以前に喫煙していた人は、現在も喫煙している人より傷の治りに関する合併症が少なく、相対リスクは0.73でした[5]。ただし、これは手術の傷を対象にした研究です。レーザーでのタトゥー除去の回数や除去率を調べたものではありません[5]。4週間という数字も、手術の話としてお読みください。

    現時点で医師としてお伝えできるのは、次のようなことです。喫煙者のグループで除去の成功率が低かったという報告はあります[1]。ただ、それが喫煙そのものの影響かどうかは、まだ確かめられていません[1, 4]。禁煙を考えている方は、除去の相談とあわせて医師にお話しください。

    木のテーブルの上で紙巻きタバコを折る両手と、こぼれた刻みタバコ

    喫煙している人が除去を始める前に

    まず、診察のときに喫煙習慣をそのままお伝えください。喫煙者で成功率が低かったという報告がある以上、医師にとって見通しを考える材料の一つになります[1]。あわせて、インクの密度、線か点描か、入れた部位といったタトゥーそのものの条件も、回数に大きく関わります[2]。こうした条件を実際に見たうえで、おおよその回数を当日ご案内します。

    次に、通院の計画を立てておくことです。2012年の研究では、施術の間隔を6週間以上あけていました[1]。除去は1回で終わるものではなく、数か月から年単位で通うことが少なくありません。仕事や予定とあわせて、無理なく続けられるペースを最初に医師と決めておくと安心です。

    inklinicでは、タトゥーの状態や生活習慣をうかがったうえで、除去の進め方をご説明しています。喫煙していることを理由に、除去をあきらめる必要はありません。回数や費用、通院の間隔について気になることがあれば、予約時にご相談ください。

    よくある質問

    タバコを吸っているとタトゥー除去は受けられませんか?

    受けられます。喫煙と除去の成績を調べた2012年の研究でも、喫煙者185人が治療を受けていました。成功率は非喫煙者より低い結果でしたが、喫煙者が治療の対象から外されていたわけではありません。診察の際に喫煙習慣をお伝えください。

    喫煙者は非喫煙者より何回多く施術が必要ですか?

    2012年の研究は、平均で何回多く必要かという数字を出していません。比べていたのは、決まった施術回数までに成功に届いた人の割合です。10回後の累積成功率は、非喫煙者で75.2%、喫煙者で22.8%でした。

    タトゥー除去の回数は何で決まりますか?

    黒いタトゥーを完全に除去した116人を調べた2025年の研究では、施術回数は平均6回(2〜20回)でした。ほかの条件を調整した推定平均は、インクの密度が低いと3.2回、高いと9.0回でした。点描か線か、上部体幹か手・指かといった違いでも差が出ています。ただし、個人の必要回数を約束する数字ではありません[2]。

    喫煙していることは診察で伝えたほうがよいですか?

    はい、お伝えください。喫煙者で成功率が低かったという報告があるため、医師がタトゥーの状態とあわせて見通しを考える材料になります。回数や通院の計画は、診察のときにご説明します。


    参考文献

    1. [1]. Pier Luca Bencini, Simone Cazzaniga, Athanasia Tourlaki, Michela Gianna Galimberti, Luigi Naldi. Removal of tattoos by Q-switched laser: variables influencing outcome and sequelae in a large cohort of treated patients. (Archives of Dermatology, 2012). doi:10.1001/archdermatol.2012.2946. リンク
    2. [2]. Candice Menozzi-Smarrito, Nicolas Pineau. A New Predictive Model for Tattoo Removal: Leveraging Patient and Tattoo Characteristics. (Journal of Cosmetic Dermatology, 2025). doi:10.1111/jocd.70186. リンク
    3. [3]. Shaked Menashe, Sharon Moscovici, Omer Dor, Yoad Govrin, Gerta Kapxhiu, Arminda Avdulaj. Removal of Artistic and Cosmetic Tattoos Using Q-Switched Nd:YAG Laser. (Journal of Cosmetic Dermatology, 2026). doi:10.1111/jocd.71038. リンク
    4. [4]. Cristiane Fumo-dos-Santos, Juliana Carvalho Ferreira. Dealing with confounding in observational studies. (Jornal Brasileiro de Pneumologia, 2023). doi:10.36416/1806-3756/e20230281. リンク
    5. [5]. Edward Mills, Oghenowede Eyawo, Ian Lockhart, Steven Kelly, Ping Wu, Jon O. Ebbert. Smoking cessation reduces postoperative complications: a systematic review and meta-analysis. (The American Journal of Medicine, 2011). doi:10.1016/j.amjmed.2010.09.013. リンク

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