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    アートメイクは日焼けで薄くなるのか、紫外線と退色の研究でわかること

    2026年10月19日

    Medical ColumnTokyo Ueno
    アートメイクは日焼けで薄くなるのか、紫外線と退色の研究でわかること

    「日焼けで薄くなる」という説明の根拠

    アートメイクの色は日焼けで早く薄くなる、という説明は施術の現場でもよく聞かれます。その背景には、紫外線が色素の分子を壊すという考え方があります。日なたに置いたカーテンや車のシートの色が少しずつあせていく様子を思い浮かべると、イメージしやすいでしょう。この仕組みには、実験による裏付けがあります。

    ただし、研究が測ったものは同じではありません。試験管内では色素の分解、マウスでは皮膚に残る色素量が調べられています[3, 4]。培養細胞や立体的な皮膚モデルの研究は、主に光による細胞への影響を扱っています[1, 6]。顔のアートメイクを受けた人について、浴びた紫外線の量と色の濃さの変化を追ったデータは、まだ十分にそろっていません。

    そこでこの記事では、色素の分解、皮膚に残る量、細胞への影響を分けて見ていきます。実験の対象が変わると、測れることも変わります。それぞれの数字が何を示し、人の顔にどこまで当てはめられるのかを添えて紹介します。

    試験管の中では、光で色素が壊れる

    2007年に報告された実験では、タトゥーに使われる赤い色素 Pigment Red 22 を4種類の有機溶媒に溶かし、光を当てました[3]。紫外線の一種である UVB を最大8時間、または自然の日光を110日間照射し、色素がどう変わるかを詳しく分析しています。その結果、4種類すべての溶媒で、色素の分子が切れることが確かめられました[3]。

    溶媒によって差もありました。テトラヒドロフランとジオキサンでは、UVB で色素の濃度がはっきり下がり、日光では完全に分解しました[3]。クロロホルムとジクロロメタンでは、UVB による低下は小さかったものの、日光ではほぼ完全に分解しています[3]。光の種類や周りの環境によって、色素の壊れ方が変わることがわかります。

    色素の種類による違いも報告されています。既存の分析研究をまとめた2015年の総説によると、フタロシアニン類、キナクリドン類、ジオキサジン類は、試験管内で比較的光に強いという結果でした[8]。一方、検討されたアゾ色素は、日光やレーザーで複数の分解物を生じました[8]。可視光だけで一部の色素が分解した研究もあります[8]。光への強さは、色素ごとに大きく異なるのです。

    青い手袋の手がスポイトで色素液を注ぐ、濃淡の異なる赤い液体入りガラス瓶3本が窓辺に並ぶ

    マウスの皮膚では、光を当てると色素が減った

    皮膚の中に入った色素でも同じことが起こるのかを調べたのが、2010年に報告されたマウスの研究です[4]。毛のないマウスの皮膚に Pigment Red 22 を刺入し、皮膚に残る色素の量を測りました。刺入から1日後の濃度は、皮膚1平方センチあたり186マイクログラムでした[4]。ここを出発点として、その後の変化を追っています。

    刺入から42日後の皮膚では、色素量が最初より約32%減っていました[4]。これとは別に、太陽光に似せた光を32日間照射した群では、最初の色素量に比べて約60%の減少が報告されました[4]。著者らは、色素が皮膚から移動することに加え、光による分解が減少に関わると推定しています。皮膚内での分解を直接確認した結果と、色素量が減った結果は区別して読む必要があります。

    皮膚の中でも光が色素を減らしうることを、数字で示した貴重な結果です。ただし対象はマウスで、使った色素も Pigment Red 22 の1種類だけです[4]。人の顔の皮膚は厚さが違い、生活の中で浴びる光の量も人それぞれです。この約60%という数字を、アートメイクが薄くなる速さとしてそのまま使うことはできません。

    細胞や人工皮膚の実験からわかること

    アートメイク用インクそのものを使った実験もあります。2011年の研究では、米国で流通するアートメイク用インク10製品を調べ、10製品すべてに二酸化チタンが含まれていることを確かめました[1]。これらのインクを、人の皮膚の線維芽細胞(肌のハリを支える細胞)と18時間培養し、そのあとに UVA と可視光を当てています[1]。

    暗い場所では、10製品とも細胞を傷つけませんでした。ところが光を当てると、10製品中8製品で細胞への毒性が見られました[1]。その多くでは、紫外線を浴びたときにヒドロキシルラジカルという反応性の高い物質が発生していました[1]。ただし、この研究が測ったのは細胞への影響です。施術した部位の色がどれだけ薄くなるかは測っていません[1]。

    2021年の研究では、人の細胞から作った立体的な皮膚モデルと、平たく培養した細胞とで、色素を含む状態での紫外線への反応を比べました[6]。立体モデルでは、色素が下の層の細胞に届く紫外線をさえぎる場合もあり、平らな培養と同じ結果にはなりませんでした[6]。皮膚の立体構造や色素のある位置で、光の影響は変わります。試験管や細胞の結果を、そのまま顔の皮膚に当てはめられない理由の一つです。

    人の皮膚では、何年でどれだけ色が減るのか

    人の皮膚のデータとしては、2011年に報告された研究があります[5]。年数を経た赤いタトゥーの皮膚の検体9件から色素を取り出して分析し、9件中5件で色素の量を測ることができました[5]。皮膚1平方センチあたりの色素量は、平均0.077ミリグラム(ばらつきは±0.046ミリグラム)でした[5]。

    著者らはこの値を、施術直後を想定した実験での値と比べています。その値は1平方センチあたり0.60〜9.42ミリグラム、平均2.53ミリグラムで、施術後に色素濃度が87〜99%下がったと推定しました[5]。ただし、同じ人を施術直後から追ったものではなく、浴びた日光の量も測っていません[5]。この大きな減少を、紫外線だけのせいとみることはできません。

    人を長い期間追跡した研究としては、乳房の放射線治療で位置合わせに使う皮膚の印を比べた試験があります[7]。60人を登録し、24か月後に55人を追跡しました。半永久的な色素は通常のタトゥーより大きく薄くなりましたが、患者の評価で p=0.071、評価者に種類を伏せた判定で p=0.27 と、統計的に意味のある差は示されませんでした[7]。対象は医療用の印で、紫外線の影響を比べた研究でもありません[7]。

    人の皮膚の色素量を比べる図。左に「施術直後を想定した値:平均2.53 mg/cm²(0.60〜9.42)」の大きな円、右に「年数を経た赤いタトゥー:平均0.07

    アートメイクの色素は一種類ではない

    ここまでの実験の多くは、Pigment Red 22 のような特定の色素を扱っています。ところが、アートメイクのインクは製品ごとに中身が違います。2024年の研究では、米国で販売されるアートメイク用インク974製品を調べ、79種類の色素が見つかりました[2]。1製品あたりでは、平均4種類の色素が混ざっていました[2]。

    79種類のうち、炭素、鉄、クロム、マンガン、モリブデンなどを使った無機系の色素は20種類でした[2]。残る59種類は、アゾ系、キナクリドン系、アントラキノン系などの有機色素です[2]。アートメイクの色素は鉱物由来の無機色素が中心、というイメージを持つ方もいます。しかし種類で数えると、有機色素のほうがずっと多いのです。

    先に見たとおり、光への強さは色素の種類によって大きく異なります[8]。974製品で79種類という幅を考えると、ある1つの色素で得た分解の結果を、すべてのアートメイクに一律に当てはめることはできません[2]。同じ茶色の眉でも、使うインクの組み合わせが違えば、光への反応が同じとは限りません。

    結局、日焼けの影響はどこまで言えるのか

    光による色素の分解は、試験管内の実験で確認されています[3]。マウスの皮膚では光の照射後に色素量が約60%減り、著者らは分解の関与を推定しました[4]。細胞や立体的な皮膚モデルの研究は光毒性などを調べたもので、退色を直接測ったものではありません[1, 6]。これらの結果は、光が色素や皮膚に影響する可能性を示しますが、同じ現象を測った証拠として一括りにはできません。

    一方で、顔のアートメイクで日焼けがどれだけ退色を早めるかを、数字で示した人の研究はまだ乏しいのが現状です。人の皮膚の色素は、リンパの流れなどで体の中へ運ばれたり、施術直後から外へ出たりもします。色素の種類や粒の大きさ、入れ方、皮膚の中での残り方も関わるため、色が薄くなった理由を紫外線だけに求めるのは正確ではありません。

    日差しへの対策としては、帽子や日傘など、無理なく続けられる方法があります。ただし、これらでアートメイクの退色をどれだけ防げるかを、この記事の研究から数値で示すことはできません。色の持ちが気になる方は、使用するインクや肌の状態、屋外で過ごす時間についても、施術前のカウンセリングでご相談ください。

    よくある質問

    日焼けをするとアートメイクはすぐに薄くなりますか?

    試験管では光による色素の分解が確認されています[3]。マウスでは、太陽光に似せた光を32日間当てた群で皮膚の色素量が約60%減り、著者らは分解の関与を推定しました[4]。人の顔のアートメイクが日焼けでどれだけ早く薄くなるかは、この結果から判断できません。日差しへの対策や施術後のケアは、施術先に相談してください。

    アートメイクに使われる色素はどれも同じですか?

    同じではありません。米国で販売されるアートメイク用インク974製品を調べた研究では、79種類の色素が見つかり、1製品あたり平均4種類が混ざっていました。79種類のうち59種類は有機色素、20種類は無機系の色素でした[2]。光への強さも色素の種類で異なります[8]。

    何年かたって色が薄くなるのは紫外線のせいですか?

    紫外線だけが原因とはいえません。年数を経た赤いタトゥーの皮膚では、施術直後を想定した値と比べて色素濃度が87〜99%下がったと推定されています[5]。ただしこの研究は日光の量を測っておらず、色素が体内へ運ばれることなど、ほかの要因も関わります。

    色の持ちが心配な場合はどうすればよいですか?

    色の持ちは、使うインクや肌の状態などでも変わります。日差しが退色にどれだけ影響するかは、人の顔のアートメイクでは十分に数値化されていません。屋外で過ごす時間が長い方は、施術前のカウンセリングで普段の過ごし方と日差しへの対策を相談してください。


    参考文献

    1. [1]. Wayne G. Wamer, Jun-Jie Yin. Photocytotoxicity in human dermal fibroblasts elicited by permanent makeup inks containing titanium dioxide. (Journal of Cosmetic Science, 2011). リンク
    2. [2]. Sarah Rigali, Cameron Cozzi, Walter Liszewski. Identification of the pigments used in permanent makeup and their ability to elicit allergic contact dermatitis. (Journal of the American Academy of Dermatology, 2024). doi:10.1016/j.jaad.2024.05.067. リンク
    3. [3]. Eva Engel, Andrea Spannberger, Rudolf Vasold, Burkhard König, Michael Landthaler, Wolfgang Bäumler. Photochemical cleavage of a tattoo pigment by UVB radiation or natural sunlight. (Journal der Deutschen Dermatologischen Gesellschaft, 2007). doi:10.1111/j.1610-0387.2007.06333.x. リンク
    4. [4]. Eva Engel, Rudolf Vasold, Francesco Santarelli, Tim Maisch, Neera V. Gopee, Paul C. Howard, Michael Landthaler, Wolfgang Bäumler. Tattooing of skin results in transportation and light-induced decomposition of tattoo pigments: a first quantification in vivo using a mouse model. (Experimental Dermatology, 2010). doi:10.1111/j.1600-0625.2009.00925.x. リンク
    5. [5]. K. Lehner, F. Santarelli, R. Penning, R. Vasold, E. Engel, T. Maisch, K. Gastl, B. König, M. Landthaler, W. Bäumler. The decrease of pigment concentration in red tattooed skin years after tattooing. (Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology, 2011). doi:10.1111/j.1468-3083.2011.03987.x. リンク
    6. [6]. Henrik Hering, Christian Zoschke, Frank König, Markus Kühn, Andreas Luch, Ines Schreiver. Phototoxic versus photoprotective effects of tattoo pigments in reconstructed human skin models: In vitro phototoxicity testing of tattoo pigments: 3D versus 2D. (Toxicology, 2021). doi:10.1016/j.tox.2021.152872. リンク
    7. [7]. A. O’Neill, S. McAleer, H. McCarty, J. Clarke, A. Drake, J. Hurwitz, A. Clayton, E. Shaw, H. Vennard, S. Gray, J. Robinson, B. Simpson, M. Stevenson, G. G. Hanna, J. M. O’Sullivan. Semi-permanent tattoos in breast radiotherapy (STaBRad) study: a randomised-controlled clinical trial comparing the ‘Precision Plus Micropigmentation System’ to permanent skin tattoos in radical breast radiotherapy patients. (Journal of Radiotherapy in Practice, 2018). doi:10.1017/S1460396917000577. リンク
    8. [8]. Urs Hauri, Christopher Hohl. Photostability and breakdown products of pigments currently used in tattoo inks. (Current Problems in Dermatology, 2015). doi:10.1159/000369225. リンク

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