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タトゥーが消えない理由は、細胞が色素を抱え続ける仕組みにある
2026年10月12日

皮膚の中に残る、溶けにくい色素粒子
タトゥーでは、染料が布に染みる場合とは異なり、溶けにくい粒子が皮膚の中に残ります。タトゥーの色材は、水にほとんど溶けない小さな粒子です[7]。針が表皮を通り抜けて真皮の浅い層に達し、そこに粒子が置かれて蓄積します[4]。粒子が皮膚のどこに残り、どの細胞に取り込まれ、どう動くかは、レーザー除去の仕組みを知る手がかりにもなります。
この記事では、ヒトの皮膚を顕微鏡で調べた研究や、マウスで細胞の動きを追った研究をもとに説明します。監修は inklinic 院長の須賀公佑医師です。タトゥーの色が残る仕組みには、細胞による色素の保持が関わっています。そして細胞が入れ替わっても、色素は近くの細胞へ引き継がれる動きが報告されています[1]。ただしこの仕組みの中心部分はマウスで示されたもので、ヒトでも同じかどうかは研究者自身が未確定と述べています[1]。この点はあとで詳しく触れます。
色素は皮膚のどの層にとどまるのか
皮膚は外側の表皮と、その下の真皮に分かれます。表皮はいつも入れ替わっている層で、真皮はコラーゲンの線維が網のように張りめぐらされた層です。タトゥーの針はこの表皮を通り抜け、真皮のいちばん上、乳頭層と呼ばれる部分に達します[4]。62歳男性の前腕から得たタトゥー皮膚の試料を調べた研究では、真皮のコラーゲン線維の網の中に、色素粒子が集まった塊が見つかっています[4]。同じ研究は、時間がたつと色素がより深い真皮へ移動し、それが退色やぼやけにつながりうるとも述べています[4]。
粒子はどれくらい小さいのでしょうか。市販の黒色インク1種類を測った研究では、ろ過前のインクで最も多い粒径が240.9 ± 2 nm、220 nmのフィルターを通した後では151 ± 2 nmでした[4]。1 nmは1ミリの100万分の1です。原子間力顕微鏡で単独の粒子16個を測ったところ、平均の投影面積は2,895 nm²で、球と仮定した直径は60.7 nmでした[4]。ただし同じ研究は、この方法では粒子が細胞内にどれだけ取り込まれているかまでは調べられなかったと述べています[4]。
施術後の皮膚は、すぐに落ち着くわけではありません。ヒトの生検を施術24時間後から40年後まで電子顕微鏡で追った研究では、治癒におよそ1か月かかりました[3]。炎症と組織の壊死、基底膜の形成、そして表皮と真皮が正常な構造に戻るという順で進みます[3]。この約1か月のあいだに、置かれた粒子は細胞へ取り込まれていきます。治った後の皮膚は、見た目には健康な皮膚と変わりません。けれど真皮の中では、粒子が細胞の中に収まった状態が続いています[3]。
色素を抱えているのはマクロファージだけではない
色素は真皮の中で、細胞の外にむき出しで置かれ続けるわけではありません。皮膚には掃除役の細胞がいて、入ってきた異物を取り込みます。その代表がマクロファージです。「大きな食べる細胞」という意味の名前で、体に入ったゴミや細菌を飲み込んで処理します。レーザー治療前のヒトのタトゥーを顕微鏡で調べた研究では、色素の顆粒は主に線維芽細胞とマクロファージの膜に囲まれた構造の中にあり、ときに肥満細胞にも見られました[5]。線維芽細胞はコラーゲンを作る細胞、肥満細胞はアレルギー反応に関わる細胞です。
古い研究ほど「色素を持つ細胞」の範囲は狭く見えていました。1987年の電子顕微鏡研究では、皮膚が正常な構造に戻った後、細胞内のインク粒子は真皮の線維芽細胞にのみ認められたと報告されています[3]。ところが観察の技術が進むと、もっと多くの細胞が関わっていることが分かってきました。2023年に発表されたヒトの研究では、施術直後の1人と、施術から3年以上たった10人のカーボンブラックのタトゥーを調べました。皮膚を切らずに、二光子蛍光寿命イメージングという方法で観察しています[2]。
その結果、真皮のマクロファージ、肥満細胞、線維芽細胞の中に色素が検出されました[2]。さらに、古いタトゥーを含む16個の個別タトゥーのうち12個(75%)で、表皮のケラチノサイト、樹状細胞、基底細胞などの表皮細胞内にもカーボンブラック粒子が検出されています[2]。この研究では、真皮のマクロファージに加え、真皮と表皮の複数の細胞が色素を保持していました。ただしこの研究はカーボンブラック、つまり黒いインクを調べたもので、すべての色のインクに同じことが言えるわけではありません[2]。
なぜ細胞は色素を抱え続けるのか
マクロファージは本来、取り込んだものを分解して処理する細胞です。細菌なら消化し、壊れた細胞の破片なら片づけます。ではなぜタトゥーの色素は処理されず、何年も細胞の中に残るのでしょうか。手がかりは色材の性質にあります。タトゥーの色材は、真皮に入れられる実質的に不溶なナノ・マイクロ粒子です[7]。水に溶ける成分は体から比較的速く排出されますが、溶けない色素は極めてゆっくりとしか排出されません[7]。同じ総説は、色素のごく一部が時間とともに代謝で分解されうるとも述べています[7]。それでも多くは分解されずに残ることが、色素が長く残り続ける出発点です。
ただし色素の化学組成、粒の大きさ、固まり方は製品ごとに違います。細胞が色素を分解できない理由も、すべてのインクに共通するとは限りません。ここで言えるのは、タトゥーの色材が溶けにくい粒子であり、その性質ゆえに細胞の中にとどまりやすい、ということまでです[7]。また色素は皮膚の中にじっとしているだけではなく、リンパを介して、場合によっては直接血中へ分布しうると総説は述べています[7]。皮膚から離れていく分もある一方で、皮膚に残る分が見た目の色を支えています。
細胞が死んでも色素が消えない仕組み
細胞には寿命があります。マクロファージも例外ではなく、いずれ死んで入れ替わります。それならタトゥーも、細胞の死とともに少しずつ薄くなってよさそうです。この疑問に正面から答えたのが、2018年に発表されたマウスの研究です[1]。研究チームはマウスの尾にタトゥー用ペーストを入れ、3週間以上治癒させてから、真皮のマクロファージを取り除けるモデルを使いました[1]。注入した場所に残り、長期の色に寄与する色素粒子は、真皮マクロファージの中に見つかりました[1]。
興味深いのは、マクロファージを約1週間いない状態にしても、タトゥーの見た目は変わらなかったことです[1]。細胞が消えて色素が細胞の外に放出されても、色はその場に残りました。そして数週間かけて新しいマクロファージが流れ込み、放出された細胞外の色素を回収していきました[1]。著者らはここから、死んだ色素保持マクロファージが放出した色素を、近くのマクロファージが再び取り込むというモデルを提案しています[1]。細胞が入れ替わっても、色素は次の細胞に取り込まれます。これが「捕捉・放出・再取り込み」の仕組みです。
ただし、この捕捉・放出・再取り込みの仕組みが、ヒトにもそのまま当てはまるかは、論文の著者自身が未確定と明記しています[1]。マウスで示された仕組みであって、ヒトの長期的なタトゥー維持をどこまで説明するかは、まだ確かめられていません。ヒトのタトゥーで色素が何年も細胞の中にあること[2, 3]や、細胞の寿命を超えて色が残ることを考える手がかりにはなります。「皮膚に染み込んでいる」と考えるより、「細胞が抱え込み、死んでも色素がその場に残る」と考える方が、ヒトで観察された事実には近いのです。ただし細胞から細胞への受け渡しそのものは、ヒトではまだ直接確かめられていません。
表皮が入れ替わってもタトゥーが残るのはなぜか
表皮の細胞は入れ替わりながら表面へ移動し、やがて垢として剥がれ落ちると一般に説明されます。だから「表皮にある色素は剥がれて消え、残るのは真皮の分だけ」とよく言われます。けれど最新のヒト観察は、もう少し複雑な姿を示しています。2023年の研究では、施術直後のタトゥーで、傷の周囲にあるカーボンブラック粒子が施術84日後にも観察されました[2]。さらに施術から最大9年たった古いタトゥーでも、表皮のケラチノサイト、樹状細胞、基底細胞の中に色素が検出されています[2]。表皮の色素は、きれいに消えてなくなるわけではなさそうです。
とはいえ、見た目の色を長く支えているのは真皮側です。真皮は表皮のように毎日入れ替わる層ではなく、コラーゲンの網の中に線維芽細胞やマクロファージが暮らしています。そこに置かれた溶けない粒子は、ゆっくりとしか排出されず[7]、細胞に取り込まれたまま何年も残ります[2, 3]。1987年の研究で、治癒後の皮膚が正常な構造に戻っても細胞内に粒子が認められたこと[3]。2018年のマウス研究で、細胞が入れ替わっても色素がその場にとどまったこと[1]。これらが重なって、タトゥーは表皮の入れ替わりに関係なく残り続けるのです。

レーザー除去で皮膚の中に起きていること
レーザー除去では、細胞に取り込まれた粒子を砕き、細胞の外へ放出させることを狙います。Qスイッチルビーレーザーで治療したヒトのタトゥーを顕微鏡で調べた研究では、照射直後に色素を含む細胞が傷つき、一部の色素粒子が小さくなったり層状に変化したりする様子が観察されました[5]。24時間後には好中球という白血球が集まり、11日後には色素は再び細胞の中にありました[5]。著者らは、色素顆粒の物理的な変化、再分布、除去が臨床的な退色に関わると述べています[5]。
別の研究では、QスイッチNd:YAGレーザーを3回以上照射したアマチュアとプロのタトゥー35件の生検を調べています[6]。照射直後、最も浅い真皮では空胞ができ、色素粒子が消失していました[6]。一方、中層から深層の真皮に残った断片化した粒子は、再び細胞に貪食されることが多いと報告されています[6]。この35件の生検では、黒い粒子への1,064 nm、赤い粒子への532 nmの照射で、周囲の細胞や真皮コラーゲンへの熱による傷害はほとんど見られませんでした[6]。一方、別の研究では高いフルエンスの照射で真皮に空胞ができ、色素の周囲でコラーゲン束が均質化する変化や、瘢痕が1例報告されています[5]。レーザーが周囲の組織にどれだけ影響するかは、照射条件によって変わるようです。
両方の観察をつなぐと、レーザー照射後に皮膚の中で何が起きているかが見えてきます。砕かれた粒子のうち、浅い層の分は消え、深い層に残った分は細胞がまた抱え込みます[5, 6]。複数回の照射で少しずつ色が薄くなっていく経過そのものを、この2つの研究が直接確かめたわけではありません。それでも、残った粒子が皮膚の細胞に再び取り込まれること[6]は、除去の回数を考えるうえで知っておきたい点です。
仕組みを知ったうえで、除去をどう進めるか
タトゥーが残る仕組みは、細胞が溶けない粒子を抱え込み続けることにあります。死んでも近くの細胞へ色素が引き継がれる動きが、マウスの研究で報告されています[1]。だから除去は「染みを抜く」作業ではなく、「細胞の抱え込みを何度か解いていく」作業になります。粒子がどの深さにあるか、どれだけ細胞に取り込まれているかは、タトゥーの古さや入れ方、インクの種類で変わります。見た目の濃さだけでは、皮膚の中の状態は分かりません。だから除去を考えるなら、まず皮膚の状態を医師に診てもらうことが出発点になります。
inklinic では、医師の診察でタトゥーの状態を確認したうえで、レーザー除去の進め方をご案内しています。何回くらい必要か、どのくらいの間隔で照射するか、痛みや副作用にどう備えるかは、診察で皮膚を見てからお伝えします。副作用や経過には個人差があるので、この記事の説明をそのまま自分の場合に当てはめず、気になる点は予約時にご相談ください。除去の仕組みについても、診察時にご説明します。

よくある質問
タトゥーの色素は皮膚のどこに残っているのですか?
針は表皮を通り抜け、真皮の浅い層(乳頭層)に達します。色素の粒子はこの層のコラーゲン線維の網の中に集まり、マクロファージや線維芽細胞などの細胞に取り込まれた状態で何年も残ります。
マクロファージが死んでもタトゥーが消えないのはなぜですか?
マウスの研究では、色素を持つマクロファージが死ぬと色素が細胞の外に放出され、数週間かけて流れ込んだ新しいマクロファージがそれを再び取り込む動きが観察されました。細胞が入れ替わっても色素はその場に受け渡されます。ただしこの仕組みがヒトにも当てはまるかは、研究者自身が未確定としています。
レーザー除去が1回で終わらないのはなぜですか?
レーザーは細胞に抱えられた色素粒子を砕きます。浅い真皮の粒子は消えやすい一方、中層から深層に残った断片は再び細胞に取り込まれることが多いと報告されています。抱え直された粒子を次の照射でさらに砕く繰り返しで、少しずつ色が薄くなります。
参考文献
- [1]. Anna Baranska, Alaa Shawket, Mabel Jouve, Myriam Baratin, Frédéric Fiore, Marc Bajénoff, Philippe Benaroch, Marc Dalod, Marie Malissen, Sandrine Henri, Bernard Malissen. Unveiling skin macrophage dynamics explains both tattoo persistence and strenuous removal. (Journal of Experimental Medicine, 2018). doi:10.1084/jem.20171608. リンク
- [2]. Marius Kröger, Johannes Schleusener, Jürgen Lademann, Martina C. Meinke, Sora Jung, Maxim E. Darvin. Tattoo Pigments Are Localized Intracellularly in the Epidermis and Dermis of Fresh and Old Tattoos: In vivo Study Using Two-Photon Excited Fluorescence Lifetime Imaging. (Dermatology, 2023). doi:10.1159/000529577. リンク
- [3]. P. J. Lea, A. Pawlowski. Human tattoo. Electron microscopic assessment of epidermis, epidermal-dermal junction, and dermis. (International Journal of Dermatology, 1987). doi:10.1111/j.1365-4362.1987.tb00590.x. リンク
- [4]. Colin A. Grant, Peter C. Twigg, Richard Baker, Desmond J. Tobin. Tattoo ink nanoparticles in skin tissue and fibroblasts. (Beilstein Journal of Nanotechnology, 2015). doi:10.3762/bjnano.6.120. リンク
- [5]. C. R. Taylor, R. R. Anderson, R. W. Gange, N. A. Michaud, T. J. Flotte. Light and electron microscopic analysis of tattoos treated by Q-switched ruby laser. (Journal of Investigative Dermatology, 1991). doi:10.1111/1523-1747.ep12478570. リンク
- [6]. J. E. Ferguson, S. M. Andrew, C. J. Jones, P. J. August. The Q-switched neodymium:YAG laser and tattoos: a microscopic analysis of laser-tattoo interactions. (British Journal of Dermatology, 1997). doi:10.1046/j.1365-2133.1997.18581951.x. リンク
- [7]. Jørgen Serup. From Technique of Tattooing to Biokinetics and Toxicology of Injected Tattoo Ink Particles and Chemicals. (Current Problems in Dermatology, 2017). doi:10.1159/000450773. リンク
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