Journal / inklinic

    タトゥー除去レーザーの麻酔クリーム、痛みはどこまで減るのか

    2026年9月28日

    Medical ColumnTokyo Ueno
    タトゥー除去レーザーの麻酔クリーム、痛みはどこまで減るのか

    60分塗布した試験では、痛みの評価がおよそ3分の2に

    レーザーによるタトゥー除去を受ける成人30人を対象に、同じタトゥーの2か所へ麻酔クリームと偽薬を同時に60分塗り、そのあとレーザーを当てた試験があります[1]。痛みは、本人が0から100 mmの線の上に印を付ける方法で測りました。結果は、麻酔クリームを塗った側の平均が42 mm、偽薬を塗った側が66 mmでした[1]。差は24 mmで、偶然でこれだけの差が出る確率はごく低いと判定されています(P=0.001)[1]。

    63人が参加し、62人が最後まで終えた別の試験でも、傾向は同じでした[2]。同じ設計で測った平均は、麻酔クリーム側が39.1、偽薬側が58.6でした[2]。差は19.5で、こちらも統計的にはっきりした差でした(P<0.0001)[2]。2つの試験をあわせて見ると、60分塗った麻酔クリームは、100 mmの物差しで痛みの自己評価を20〜24 mmほど下げた、と読めます[1, 2]。痛みは残りましたが、評価はおよそ3分の2に下がりました。

    ただし、この2つの試験で塗られたのは、リドカイン7%とテトラカイン7%を配合したクリームです[1, 2]。リドカイン2.5%とプリロカイン2.5%を配合したクリームとは、成分も濃度も別の製剤です。この記事では、まず上の試験の中身を確かめます。そのあとで、別の配合のクリームを比べた試験や、別の処置で効きが弱かった報告も見ていきます。結果を見る際は、製剤・塗布時間・比較対象をあわせて確認する必要があります。

    痛みは本人が100 mmの線に印を付けて測る

    これらの試験で使われた痛みの物差しは、100 mmの一本の線です[1, 2]。左端が「痛みなし」、右端が「これ以上ない痛み」で、本人がいま感じている痛みの位置に印を付けます。左端から印までの長さがそのまま点数になり、VASと呼ばれます。本人が感じる痛みの強さを、線上の位置で表す方法です。ですから、同じレーザーを当てても、人によって点数は大きくばらつきます。試験が同じ人の体で左右を比べた理由も、ここにあります。次のセクションで詳しく説明します。

    線に印を付ける方法とは別に、「十分に痛みが抑えられたか」を本人に尋ねた結果も記録されています[1, 2]。30人の試験では、麻酔クリーム側で「十分だった」と答えた割合が50%、偽薬側は7%でした(P=0.002)[1]。62人の試験では、麻酔クリーム側が53%、偽薬側が18%でした(P<0.0001)[2]。偽薬側と比べれば明らかに多い数字です。同時に、麻酔クリームを塗っても、およそ半分の人は「十分ではなかった」と答えた、という事実も示しています。この2つの質問から、痛みは軽減しても、十分には抑えられない人がいることが分かります。

    0〜100 mmの横一本の線を上下に2本並べる。左端に「痛みなし」、右端に「これ以上ない痛み」のラベル。上の線は30人の試験で、42 mmに青い印(麻酔クリーム

    同じ人の左右で比べたから、体質の差が消える

    62人の試験の設計を細かく見ます。試験は3つの施設で行われ、参加者は自分の似たタトゥー2か所に、麻酔クリームと偽薬の両方を受けました[2]。偽薬は見た目も手触りも本物と区別できないように作られ、厚さ約1 mmで60分間、同時に塗られました[2]。レーザーは両方の部位に同じ設定で、同じ10〜25発を照射しました[2]。どちらにどれを塗ったかは、本人にも施術者にも知らされていません。つまり、違いは中身のクリームだけで、そのほかの条件はすべてそろえてある試験です。

    なぜ2つのグループに分けず、同じ人の左右で比べたのでしょうか。痛みの感じ方には人によって大きな差があるからです。痛みに強い人ばかりが麻酔側に集まれば、クリームが効いたように見えてしまいます。自分自身を比較相手にすれば、その揺れは打ち消されます。30人、62人という数は大規模ではありませんが、この設計なら1人ごとの差をそのまま取り出せます。加えて、別々に行われた2つの試験で20 mm前後という近い差が出ています[1, 2]。別々の試験で、近い結果が得られています。

    この製剤については、12件の第III相試験、成人あわせて669人の結果をまとめた製品情報も公開されています[6]。その表には、上の2つの試験がタトゥー除去の試験1、試験2として載っています[6]。多くの処置で調べられてきた製剤の一部として、タトゥー除去の数字がある、という関係です。ただし669人という数は、他の処置の試験も含めた合計です。タトゥー除去だけで見れば、根拠となる人数は30人と62人の2つの試験です[1, 2]。

    20 mmの差は「意味のある差」なのか

    点数の低下が本人にも実感できる変化かを知るため、研究者は、患者自身が改善したと感じる最小の変化幅を調べています。手術後の痛みで224人を登録し、219人が2回の面接を終えた観察研究では、その幅は100 mmのうち9.9 mmでした[5]。著者らは、術後の痛みでは10 mmの変化が臨床的に意味のある改善または悪化を表す、と結論しています[5]。同じ研究では、患者が「この程度なら受け入れられる」と答える水準が33 mmでした[5]。

    術後痛の研究で得られた約10 mmという値は、同じ人の痛みの変化についての目安です[5]。タトゥー除去の試験で見られた部位間の平均差19.5〜24 mmとは比較の方法が異なるため、この値を超えたことだけで、本人が実感できる効果の大きさとは判断できません[1, 2, 5]。急性の痛みの最小重要差を集めた系統的レビューでも、29研究6,517人の結果は、開始時の痛みの強さや改善の定義、試験の設計によって大きく異なりました[4]。

    33 mmという「受け入れられる水準」も術後痛の研究で得られた値で、タトゥー除去にそのまま当てはめられる基準ではありません[5]。タトゥー除去の試験では、麻酔クリームを塗った側の平均は39.1 mmと42 mmで、痛みは残っていました[1, 2]。また、「十分に麻酔が効いていた」と答えた人は50%と53%でした[1, 2]。平均の痛みが下がることと、全員が十分な効果を得られることは分けて考える必要があります。

    縦棒グラフ。縦軸は0〜30 mm。左から、タトゥー除去試験1の差24 mm(青)、試験2の差19.5 mm(青)、術後痛研究の最小重要差9.9 mm(灰色)の3

    2種類のクリームを比べた試験では、差は出なかった

    では、リドカインとプリロカインを配合したクリームはどうでしょうか。黒いタトゥーのある15人で、2種類のクリームを左右に分けて比べた試験があります[3]。片側にリドカイン7%・テトラカイン7%のクリームを、もう片側にリドカイン2.5%・プリロカイン2.5%のクリームをフィルムで覆って、それぞれ60分塗りました[3]。クリームを取ってから5分以内に、1064 nmのQスイッチNd:YAGレーザーを、スポット径3 mm、フルエンス6〜10 J/cm²、1 Hz、1パスで照射しました[3]。照射直後の痛みを、10 cmの線で測っています[3]。

    結果は、リドカイン・テトラカイン側の平均が4.3±1.8、リドカイン・プリロカイン側が3.7±2.3でした[3]。差は0.6で、95%信頼区間は−0.7〜1.9、P=0.335でした[3]。「十分に痛みが抑えられた」と答えた人は、リドカイン・テトラカイン側で15人中8人(53%)、リドカイン・プリロカイン側で15人中12人(80%)で、P=0.289でした[3]。どちらの指標でも、統計的に意味のある差は示されていません。リドカイン・プリロカイン側の数字がやや良く見えますが、15人ではこの程度の違いは偶然の範囲を出ない大きさです。

    この試験の読み方には注意が要ります。まず、比べたのは2種類の麻酔クリームどうしで、無麻酔や偽薬とは比べていません[3]。ですから、前半で見た20 mm前後の下げ幅を、そのままリドカイン・プリロカインのクリームの効果として扱うことはできません。次に、差が出なかったことと、同じだけ効くことは別です。信頼区間が−0.7から1.9まで広いのは、15人という人数では「どちらがどれだけ効くか」を細かく決めきれないためです[3]。2種類のクリームが同程度に効く、と言い切る材料にもなりません。

    処置や塗る時間が違えば、数字はそのまま使えない

    同じ製剤でも、処置が違えば結果は変わります。リドカイン7%・テトラカイン7%クリームの製品情報には、12件の試験、成人669人分の結果が処置ごとに並んでいます[6]。たとえば、パルスダイレーザーの試験では、塗布時間は20分でした[6]。80人の試験で麻酔側16 mm対偽薬側31 mm、60人の試験で16 mm対36 mmと、いずれもはっきりした差が出ています(P<0.001)[6]。差は15〜20 mmで、タトゥー除去と近い幅です。しかし塗布時間は、タトゥー除去の60分に対して20分です[6]。

    一方で、効かなかった報告もあります。血管への穿刺の前に塗った試験では、55人で麻酔側30 mm対偽薬側32 mmで、差はわずか2 mm、P=0.691でした[6]。製品情報は、この試験では有効性が示されなかった、と記しています[6]。同じクリームが、ある処置では20 mm下げ、別の処置ではほとんど下げなかったわけです。痛みの種類、塗る時間、処置の条件が違えば、麻酔クリームの効きは同じではありません。

    タトゥー除去に当てはめて考えると、前半で紹介した20〜24 mmという数字は、リドカイン7%・テトラカイン7%を60分塗り、レーザーによるタトゥー除去を受けた条件で得られたものです[1, 2]。ほかのレーザー治療とは条件が異なるため、試験結果や体験談を相互にそのまま当てはめることはできません。タトゥー除去での効果は、除去を対象とした試験から判断する必要があります。

    横並びの比較表風の図。行ごとに処置名を左に置く(タトゥー除去60分塗布 30人/タトゥー除去60分塗布 62人/パルスダイレーザー20分塗布 80人/パルスダイ

    予約する前に知っておきたいこと

    試験結果をまとめます。リドカイン7%・テトラカイン7%の麻酔クリームを60分塗った側では、痛みの自己評価の平均がおよそ3分の2に下がりました[1, 2]。ただし、塗った人の半分近くは「十分ではなかった」と答えています[1, 2]。麻酔クリームで痛みは軽減しても、残る可能性を考えておきましょう。

    もう一つ大切なのは時間です。効果を示した試験はどれも、レーザーの前に60分塗っています[1, 2, 3]。麻酔クリームを使う場合、この待ち時間は施術の一部です。予約の際には、麻酔の方法、来院してから照射までの流れ、当日の所要時間をあわせて聞いておくと安心です。痛みの感じ方には個人差が大きく、同じ条件でも数字は人によってばらつきます[1, 2]。ご自身の体質や以前の施術での経験、心配な点は、予約時にご相談ください。当日の流れは施術前にご案内します。

    よくある質問

    タトゥー除去レーザーの前に麻酔クリームを塗ると、痛みはどれくらい減りますか?

    同じ人の体で麻酔クリーム側と偽薬側を比べた2つの試験では、100 mmの痛みの物差しで42 mm対66 mm(30人)、39.1対58.6(62人)でした。およそ3分の2に下がった数字です。使われたのはリドカイン7%・テトラカイン7%のクリームを60分塗る条件です。

    麻酔クリームを塗れば、除去レーザーの痛みはなくなりますか?

    なくなりません。「十分に痛みが抑えられた」と答えた人は、麻酔クリーム側で50〜53%でした。半分近くの人は十分ではなかったと答えています。かなり減るが残る、と考えておくのが実際に近いです。

    リドカインとプリロカインを配合したクリームでも同じように効きますか?

    15人で2種類のクリームを左右で比べた試験では、痛みの差は0.6点で、統計的に意味のある差は出ませんでした。ただし無麻酔や偽薬との比較はなく、人数も少ないため、同じだけ効くと言い切る材料にもなりません。

    他のレーザー治療で麻酔クリームが効いたなら、タトゥー除去でも効きますか?

    処置や塗る時間が違えば結果は変わります。同じクリームでも、血管穿刺の前に塗った試験では30 mm対32 mmでほとんど差がありませんでした。タトゥー除去の効きは、タトゥー除去の試験の数字で確かめる必要があります。


    参考文献

    1. [1]. John Z. S. Chen, Laurie G. Jacobson, Aboneal D. Bakus, Jerome M. Garden, Dina Yaghmai, Leonard J. Bernstein, Roy G. Geronemus. Evaluation of the S-Caine Peel for induction of local anesthesia for laser-assisted tattoo removal: randomized, double-blind, placebo-controlled, multicenter study. (Dermatologic Surgery, 2005). doi:10.1111/j.1524-4725.2005.31074. リンク
    2. [2]. ZARS, Inc.. Study code 43-05: A Randomized, Double-Blind, Placebo Controlled, Paired Study Evaluating S-Caine Peel (Lidocaine 7% and Tetracaine 7% Cream) for Induction of Local Dermal Anesthesia for Laser-Assisted Tattoo Removal in Adults. (German Clinical Trials Register / DIMDI, 2005(報告書日付、2018年訂正版公開)). リンク
    3. [3]. Karin Greveling, Errol P. Prens, N. ten Bosch, Menno B. van Doorn. Comparison of lidocaine/tetracaine cream and lidocaine/prilocaine cream for local anaesthesia during laser treatment of acne keloidalis nuchae and tattoo removal: results of two randomized controlled trials. (British Journal of Dermatology, 2017). doi:10.1111/bjd.14848. リンク
    4. [4]. Mette Frahm Olsen, Eik Bjerre, Maria Damkjær Hansen, Jørgen Hilden, Nino Emanuel Landler, Britta Tendal, Asbjørn Hróbjartsson. Pain relief that matters to patients: systematic review of empirical studies assessing the minimum clinically important difference in acute pain. (BMC Medicine, 2017). doi:10.1186/s12916-016-0775-3. リンク
    5. [5]. Paul S. Myles, David B. Myles, William Galagher, David Boyd, Caroline Chew, Nola MacDonald, Alicia Dennis. Measuring acute postoperative pain using the visual analog scale: the minimal clinically important difference and patient acceptable symptom state. (British Journal of Anaesthesia, 2017). doi:10.1093/bja/aew466. リンク
    6. [6]. CROMA-PHARMA GmbH. Pliaglis 70 mg/g + 70 mg/g cream: Summary of Product Characteristics. (electronic Medicines Compendium, 2023). リンク

    Related

    あわせて読みたい記事

    Consultation & Reservation

    まずはお気軽に
    ご相談ください

    カウンセリングでは、ご希望のデザインや不安な点を丁寧にお伺いします。 無理な勧誘は一切ございません。