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    アートメイクでケロイドはできる?論文に載った症例から分かること

    2026年10月12日

    Medical ColumnTokyo Ueno
    アートメイクでケロイドはできる?論文に載った症例から分かること

    論文に載った「タトゥーの瘢痕」はどんな症例だったか

    アートメイク後の瘢痕について調べるとき、まず目に入るのはタトゥーの症例報告です。例えば2016年に報告された症例は、38歳の米国海兵隊の女性でした[4]。施術から4日後、右の前胸部にある装飾タトゥーの周囲の赤みやむくみ、かゆみで救急を受診しました[4]。6週間後にプライマリケアを受診し、治療を受けてもさらに2週間で悪化したため、皮膚科へ紹介されました[4]。皮膚の一部を取って調べる生検で、早期の肥厚性瘢痕と診断されています[4]。肥厚性瘢痕とは、傷が治る途中で赤く盛り上がって残る傷あとのことです。この病変は、トリアムシノロンという薬を病変の中に注射する治療に反応しました[4]。

    もう一つは2009年に報告されたケロイドの症例で、41歳の男性の左胸部に限られて生じたものです[5]。タトゥーは8年前に入れたもので、治るまでの時期に問題はありませんでした[5]。ケロイドが出たのは、同じ場所にレーザー脱毛を受けた後です。受診時には、その脱毛から2年がたっていました[5]。この男性には、数年前に縫った傷が肥厚性瘢痕になった既往がありました[5]。著者は、レーザー脱毛による熱の損傷がきっかけとして考えられると述べていますが、使用したレーザーの種類や設定までは明らかにされていません[5]。この2例はいずれも胸の装飾タトゥーで、眉や唇のアートメイクの症例ではありません[4, 5]。

    アートメイクの症例として数えられる報告はあるのか

    装飾タトゥーの瘢痕報告を、アートメイクで起きた例として合算することはできません。先ほどの2例は、部位も施術の種類もアートメイクとは異なります[4, 5]。アートメイクは眉や唇、目のきわに色を入れる施術です。胸の広い面に模様を入れる装飾タトゥーとは条件が違います。「タトゥーでケロイドが出た」という話を目にしても、それがどの施術の、どんな状況の症例かを確かめることが欠かせません。

    アートメイクが含まれるまとまった記録としては、オランダの専門紹介施設での分析があります[3]。2017年1月から2020年3月に受診した326人のうち、タトゥー関連の合併症と判断された301人に、308件の合併症がありました[3]。308件のうちアートメイクは22件、7.1%でした[3]。診断の内訳で瘢痕は1件、ケロイドは1件です[3]。ただし本文と図の説明では、肥厚性瘢痕は胸部の黒い装飾タトゥーと、レーザー以外の方法でタトゥーを除去した後の手首に示されています[3]。図に示されたアートメイクの例には、眉への赤色アレルギー反応、下まぶたのブローアウト(色のにじみ)、眉の施術不良があります[3]。この研究は、瘢痕・ケロイドの2件をアートメイク由来とは記載していません[3]。

    「7.1%」という数字の意味にも注意が必要です。これは、合併症で専門施設を受診した308件の中で、アートメイクが占めた割合です[3]。アートメイクを受けた人全体のうち、どれだけの人に合併症が出たかを示す数字ではありません。割合を見るときは、分母が専門施設の受診者なのか、施術を受けた人全体なのかを確認する必要があります。

    横長の図。左に「受診者326人 → 合併症あり301人 → 合併症308件」の流れを矢印で示す。右に308件の内訳を帯グラフで描き、「アートメイク 7.1%」を

    症例報告の件数から発生率は分からない

    タトゥー全体を見ても、瘢痕やケロイドの報告は目立って少ない、とオランダの研究者は書いています[3]。原文では「remarkably rarely reported」という表現です[3]。ただし、症例報告には発生頻度を調べるうえで限界があります。症例報告で扱われる患者は、代表性のある集団から選ばれたものではありません[7]。そのため、率や比、発生率、有病率といった情報を作ることができないのです[7]。

    症例報告の件数を数えても、施術を受けた人全体のうち何人に起きたかは分かりません。アートメイク後のケロイドや肥厚性瘢痕の報告が少ない、あるいは見つからないことは、起こりにくいことや安全そのものを証明する根拠にはなりません[7]。症例報告からは、発症した人の背景や施術の条件を確認できます。

    左右対比の図。左に「症例報告」として日記帳のアイコンと「起きた例を1件ずつ記録」「分母がない」の短い説明。右に「発生率」として出席簿のアイコンと「施術を受けた全

    レビュー論文が挙げるアートメイクの合併症

    アートメイクでは、ケロイド以外の合併症も報告されています。2024年に米国皮膚科学会の雑誌に載ったレビューは、アートメイク(永久化粧)の使われ方、規制、合併症を扱っています[1]。そこでは有害な転帰として、感染性、アレルギー性、炎症性の合併症が挙げられています[1]。眉や唇に小さな傷をつけて色を入れる以上、傷の治りに関わるトラブルは起こり得ます。だからこそ、施術後の清潔と経過観察が大切になります。

    2022年に発表されたレビュー章は、美容タトゥーと医療タトゥーの合併症を時期で分けて概説しています[2]。後から出る合併症として、色の退色や変色、ブローアウト、丘疹や結節(皮膚の小さなふくらみやしこり)が挙げられています。ほかにも、サルコイドーシスに関連する肉芽腫、唇のタトゥーでの苔癬様皮膚炎、目の刺激が報告されています[2]。マイクロブレーディングは、細い刃で眉に毛のような線を描く手法で、他の施術と同じく皮膚を傷つけるため、治りの経過に注意が必要です。皮膚が硬くなったり跡が残ったりする変化にはいくつもの種類があり、盛り上がって広がるケロイドとは診断が別です。

    体質と既往と部位、報告から読み取れる注意点

    症例報告では、過去の傷の治り方も確認できます。2009年のケロイド例の男性には、縫った傷が肥厚性瘢痕になった既往がありました[5]。オランダの研究者も、瘢痕やケロイドの既往がある人では注意するよう勧めています[3]。言いかえると、自分の体に過去、盛り上がる傷あとができたことがあるかどうかが、最初に確かめるべき点です。手術の跡、ピアスの穴、やけど、にきびの跡など、思い当たるものがあれば、申し込み前にそのまま伝えてください。

    部位と、施術後の刺激も報告に出てくる条件です。2例の装飾タトゥーはどちらも胸部でした[4, 5]。ケロイドの例では、タトゥー部位へのレーザー脱毛による熱の損傷がきっかけとして考えられると著者は述べていますが、使用したレーザーの種類や設定は明らかにされていません[5]。アートメイクは眉や唇が中心で、胸部とは条件が異なります。この症例の著者は、タトゥーのある部位へのレーザー脱毛を避けるよう勧めています[5]。アートメイクのある部位も、脱毛レーザーの照射範囲から外すよう事前に伝えてください。また、2016年の例では、施術から4日後に赤みやむくみ、かゆみで救急を受診し、6週間後のプライマリケア受診と、その後2週間の治療を経て皮膚科へ紹介された時点でも病変は悪化していました[4]。一般的には、赤みや盛り上がりが引かずに強くなる場合、早めに医療機関へ相談することが勧められます。

    チェックリスト風の図。人の上半身のシルエットを中央に置き、吹き出しで「既往:盛り上がる傷あと(手術跡・ピアス・やけど)」「部位:報告例は胸部の装飾タトゥー」「刺

    申し込む前にできることと、施術後に見ておくこと

    申し込みの前には、盛り上がる傷あとの既往を思い出し、カウンセリングでそのまま伝えてください。小さな跡でも「盛り上がって残った」経験があれば、伝える価値があります。施術部位に予定しているレーザー脱毛や、過去に同じ部位で受けたレーザー処置も伝えてください。ケロイドの症例では、タトゥー部位へのレーザー脱毛がきっかけとして考えられると論じられているからです[5]。色素のある部位への脱毛レーザー照射は避けるよう、事前に確認してください[5]。

    施術後は、赤みや盛り上がりの変化を見ておきます。2016年の症例では、施術から4日後に赤みやむくみ、かゆみで救急を受診し、6週間後のプライマリケア受診と、その後2週間の治療を経て皮膚科へ紹介された時点でも病変は悪化しており、生検で早期の肥厚性瘢痕と診断されました[4]。その病変は、トリアムシノロンの病変内注射という治療に反応しています[4]。早い段階で診断がつけば、治療の選択肢があるということです。気になる変化があれば、早めに施術を受けた医療機関や皮膚科に相談することをおすすめします。心配な点は、予約の際にご相談ください。

    白衣の医師が明るい診察デスクでクライアントの話を聞くカウンセリング風景

    予約前と施術後に確認したい条件

    論文に載った瘢痕の例は胸部の装飾タトゥーであり、アートメイクの例として数えられません[4, 5]。308件を分析した研究でも、瘢痕とケロイドの2件はアートメイク由来とは記載されていません[3]。そして症例報告の件数は、発生率を示せません[7]。

    予約前には、盛り上がる傷あとの既往があるか[3, 5]、施術部位に後からレーザー脱毛を受ける予定があるかを確認してください。色素のある部位への脱毛レーザー照射は避けてください[5]。施術後は、数週間のうちに悪化する変化がないかを見ておきます[4]。該当することがあれば医師に伝えてください。不安が残る場合は、予約時にそのままお伝えください。

    よくある質問

    アートメイクでケロイドになった症例は論文に載っていますか?

    よく引用される瘢痕やケロイドの症例は、胸部の装飾タトゥーや、タトゥー部位へのレーザー脱毛後のもので、眉や唇のアートメイクの例ではありません。308件のタトゥー合併症を分析した研究でも、瘢痕1件とケロイド1件はアートメイク由来とは記載されていません。

    症例報告が少なければ、アートメイクは安全と考えていいですか?

    いいえ。症例報告は代表性のある集団から選ばれたものではなく、発生率を示せません。報告の少なさだけで、起こりにくさや危険性は判断できません。症例からは、発症した人の背景や施術の条件を確認できます。

    ケロイドや肥厚性瘢痕になったことがある人でもアートメイクを受けられますか?

    瘢痕やケロイドの既往がある人では注意するよう、タトゥー合併症の研究者が勧めています。手術の跡やピアスの穴が盛り上がった経験があれば、予約時にそのまま伝え、医師と相談したうえで判断してください。

    施術後、どのくらいの時期に瘢痕の変化が出ますか?

    装飾タトゥーの一例では、施術4日後に赤みやむくみ、かゆみで救急を受診しました。6週間後にプライマリケアを受診し、さらに2週間の治療でも悪化したため皮膚科へ紹介され、早期の肥厚性瘢痕と診断されています。施術後に赤みや盛り上がりが引かずに強くなる場合は、様子を見続けず早めに医療機関で診てもらってください。


    参考文献

    1. [1]. Ghazal Ghafari, Jack Newcomer, Sarah Rigali, Walter Liszewski. Permanent makeup: A review of its technique, regulation, and complications. (Journal of the American Academy of Dermatology, 2024). doi:10.1016/j.jaad.2024.01.098. リンク
    2. [2]. Jørgen Serup. Technical and Clinical Complications of Cosmetic Tattooing. (Current Problems in Dermatology, 2022). doi:10.1159/000526048. リンク
    3. [3]. Sebastiaan A. S. van der Bent, D. Rauwerdink, E. M. M. Oyen, K. I. Maijer, T. Rustemeyer, A. Wolkerstorfer. Complications of tattoos and permanent makeup: overview and analysis of 308 cases. (Journal of Cosmetic Dermatology, 2021). doi:10.1111/jocd.14498. リンク
    4. [4]. Aubrey E. Winn, Shayna C. Rivard, Brian Green. Lesions Arising in a Tattoo of an Active Duty US Marine Corps Woman. (Journal of Special Operations Medicine, 2016). リンク
    5. [5]. Nicolas Kluger, Sophie Hakimi, Pascal Del Giudice. Keloid Occurring in a Tattoo after Laser Hair Removal. (Acta Dermato-Venereologica, 2009). doi:10.2340/00015555-0620. リンク
    6. [7]. Trygve Nissen, Rolf Wynn. The clinical case report: a review of its merits and limitations. (BMC Research Notes, 2014). doi:10.1186/1756-0500-7-264. リンク

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