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    アートメイク後の感染はどれくらい起きるのか、論文の症例を数えてみた

    2026年9月14日

    Medical ColumnTokyo Ueno
    アートメイク後の感染はどれくらい起きるのか、論文の症例を数えてみた

    感染はどれくらい報告されているか、分母のある数字から見る

    東京都内の1つの施設で、2016年11月から2020年3月までに眉やアイラインのアートメイクを受けた人を対象に、施術項目ごとに配布した無記名の質問票を集計した報告があります[1]。回答は1,352件で、施術後に感染と判断されたのは3件、全体の0.2%でした[1]。部位ごとに見ると、眉の施術の回答1,188件のうち感染は3件、0.3%です[1]。アイラインの施術の回答243件では、感染は0件でした[1]。感染とされた3件はいずれも眉の施術後で、施術から11日、14日、84日の経過観察の時に、施術した部位から液がにじむ症状が報告されていました[1]。

    この調査では、施術を受けた人から集めた回答数が分母になっています。この質問票の集計では、感染の報告は0.2%という低い割合でした。ただし、質問票は施術項目ごとに配布された無記名式のため、同じ人が複数回回答した可能性は否定できず、1,352件がそのまま1,352人を意味するとは限りません[1]。感染かどうかを患者本人の申告で集めた調査であり、原因になった微生物の検査も行われていません[1]。アートメイク全体の感染率としてそのまま使える数字ではなく、1つの医療機関で集めた質問票の回答として読むのが正確です。感染が報告された時期や部位、最初の症状については、具体的な手がかりになります。

    横棒グラフ2本。上の棒は「眉 1,188件」で、そのうち感染3件(0.3%)を濃い色の小さな区画で示す。下の棒は「アイライン 243件」で感染0件。棒の右端に「

    一般細菌による感染、施術翌日に起きた蜂窩織炎

    マイクロブレーディング後の症例として、両眉の施術を受けた39歳の女性の例があります[4]。この女性は鎌状赤血球症という血液の持病があり、施術の翌日に右頬の頬骨のあたりに膿疱、つまり膿をもった小さな発疹が出ました[4]。診断は眼窩隔膜前蜂窩織炎でした[4]。まぶたの前側の組織に炎症が広がる病気です。入院時の血液培養は陰性で、病変部の培養検査も行われておらず、原因菌は特定されていません[4]。細菌感染を疑って抗菌薬による治療が行われましたが、原因菌が確定した報告ではありません[4]。免疫に影響する持病がある人では、施術後の小さな変化にも早く気づくことが大切だと分かる例です。

    まとまった件数が分かるのは、アムステルダムのタトゥー専門外来の報告です[8]。2017年1月から2020年3月に受診した301人、308件の合併症を後ろ向きに調べたところ、感染は10件、308件中3.3%でした[8]。その内訳は、表在性の細菌感染3件、蜂窩織炎2件、毛包炎1件、抗酸菌感染1件、真菌症1件、いぼ2件です[8]。このうち一般細菌によるものは、表在性細菌感染、蜂窩織炎、毛包炎を合わせた6件です[8]。308件のうちアートメイクは22件、7.1%で、感染10件はタトゥーとアートメイクを合わせた数です[8]。この集団は合併症で受診した人の集まりなので、施術後にどれだけ感染が起きるかを示す数字ではありません[8]。

    手袋をした手が滅菌トレーに器具を並べる処置台、奥に高圧蒸気滅菌器

    非結核性抗酸菌、インクが汚染されていた集団発生

    感染の中で特に注意したいのが、非結核性抗酸菌によるものです。結核菌とは別の抗酸菌の仲間で、皮膚に入ると、しこりやリンパ節の腫れとして現れることが報告されています[2, 3]。この菌はMycobacterium haemophilum(マイコバクテリウム・ヘモフィラム)と呼ばれます。同じ施術者による眉のアートメイクの後に、この菌による感染が集団で発生した報告があります[2]。12人に眉の病変と首のリンパ節炎がみられ、全員が抗菌薬の治療を受け、12人中10人は手術も必要になりました[2]。そして、使われていたアートメイクのインクからこの菌のDNAが検出されました[2]。インクそのものの汚染が感染の入口になりうることを示した報告です。

    単発の報告もあります。眉のアートメイクの後にしこりができた女性2人の報告では、1人は非感染性の肉芽腫性反応で、もう1人からはM. haemophilumが見つかりました[3]。感染だった1人は、クラリスロマイシン、シプロフロキサシン、リファンピシンという3種類の抗菌薬で病変が消えています[3]。見た目が同じしこりでも、感染と肉芽腫性反応の両方がありうるため、診察に加えて生検や培養、PCRなどの検査を組み合わせて鑑別することが必要です[3]。先に紹介した専門外来の308件でも、抗酸菌感染が1件数えられていますが、その菌種は記載されていません[8]。一般細菌とは治療に使う薬が違うため、この記事では一般細菌とは別の区分として数えています。

    ステンレス製トレーに並んだ使い捨て色素カップと注射器、背景は白い施術室

    ウイルスによる感染、いぼとヘルペスの報告

    ウイルス感染の症例報告としては、半永久メイクの後に扁平疣贅、つまり平たいいぼが顔に広がった39歳の女性の例があります[5]。この女性には眉、アイライン、リップへの施術歴があり、施術から約1年後に、最初の病変が右の眉の施術部位に出ました[5]。その後数か月のあいだに、いぼは顔全体へ広がりました[5]。皮膚の一部を採って調べる生検では、扁平疣贅に典型的な所見が確認されています[5]。扁平疣贅はウイルスが原因のいぼですが、この症例ではウイルスの型を特定する検査は行われていません[5]。

    韓国の半永久メイクに関する資料をまとめたレビュー論文には、2008年の半永久タトゥーに関連する合併症として、単純ヘルペス11件、二次性の細菌感染1件、接触皮膚炎9件が表にまとめられています[6]。これは同論文が個別に検証した症例報告ではなく、過去の資料を集計した数値です[6]。単純ヘルペスは、唇のまわりなどに水ぶくれをつくるウイルスとして知られています。前の節で挙げた専門外来の308件でも、いぼは2件数えられていました[8]。ウイルス感染は、細菌の感染とは原因も治療も別のものです。抗菌薬は効かず、症状も膿ではなく、いぼや水ぶくれとして現れます。眉やリップの施術後にこうした発疹が出た時は、ウイルス感染の可能性も含めて診察を受ける必要があります。

    症例報告の数は、実際の発生数とは違う

    ここまでの症例を足し合わせても、世界で起きたアートメイク後の感染の総数にはなりません。症例報告は、代表性のある集団から選ばれたものではないからです[9]。症例報告や症例集積には、分子となる症例はあっても、施術総数という分母がありません[9]。そのため、率や発生率、有病率を計算することはできないと、方法論のレビューは説明しています[9]。ほかにも、一般化が難しいこと、因果関係を確かめられないこと、結果を読みすぎてしまう危険、珍しい例ほど論文になりやすい出版バイアスが限界として挙げられています[9]。

    分母の違いは、この記事の中の数字にも当てはまります。専門外来の感染10件、308件中3.3%は、合併症で受診した人の合併症件数の内訳です[8]。一方、東京の感染3件、1,352件中0.2%は、施術後に回収した質問票の回答を分母にした自己申告の頻度です[1]。分母が「合併症件数」と「質問票の回答件数」で異なるため、2つを同じ感染率として並べることはできません。集団発生の12人についても、その施術者が何人に施術したかは報告に書かれていないので、頻度は計算できません[2]。数字を見る時は、必ず「何を分母としているか」を確かめる習慣が役に立ちます。

    分数の図を2つ横に並べる。左は分子「感染10件」、分母「合併症で受診した308件」で、下に「受診者の中の内訳」。右は分子「感染3件」、分母「質問票の回答1,35

    アレルギーや肉芽腫と比べて、感染はどれくらい多いのか

    同じ集団の中で感染と他の合併症を数えた資料として、先ほどの専門外来の308件が使えます[8]。308件のうち、赤いインクへのアレルギー性反応は157件でした[8]。原著の表では157件に50.2%と併記されていますが、308件を分母にした計算と一致しないため、ここでは件数で示します。黒いインクへの慢性の炎症性反応は56件、18.2%です[8]。感染は10件、3.3%でした[8]。この外来を受診した人の中では、感染はアレルギー性や炎症性の反応に比べて、明らかに少ない割合だったことになります。ただし、この308件はタトゥーが大半で、アートメイクは22件、7.1%でした[8]。アートメイクだけの合併症の内訳を示す数字ではありません。

    アートメイクに限った肉芽腫性反応の報告数も分かっています。マイクロブレーディング後の肉芽腫性反応を集めた文献レビューは、21例を対象にしています[7]。21例中10例は異物肉芽腫、7例は全身性サルコイドーシス、4例は皮膚サルコイドーシスでした[7]。肉芽腫とは、異物や炎症に反応して皮膚の中にできる小さなしこりのことです。一方、この記事で挙げた感染の症例報告は、12人の集団発生を除けば、いずれも1人の報告でした。ただ、前の節で見たとおり、報告の数は発生の数ではありません。報告数の少なさだけで判断せず、しこりが出たら感染と肉芽腫の両方を考えて、医師に診てもらってください。

    タトゥー専門外来の合併症308件の内訳。赤色アレルギー性反応157件、黒色慢性炎症性反応56件、感染10件、その他85件。割合ではなく件数で示す。

    受ける前と受けた後、感染について知っておきたいこと

    症例報告から分かるのは、感染が出る時期と見え方です。細菌感染が疑われた例では、施術の翌日に膿をもった発疹が出ました[4]。東京の質問票調査で感染と報告された3件は、施術から11日、14日、84日の時点で、施術部位から液がにじむ症状が確認されていました[1]。非結核性抗酸菌では、眉のしこりと首のリンパ節の腫れが手がかりでした[2, 3]。ウイルス性のいぼは、まず施術部位に出て、その後数か月をかけて広がりました[5]。赤みや腫れが長引く、膿や液が出る、しこりが残る、首が腫れる。こうした変化があれば、自己判断で様子を見ずに医師に相談してください。

    感染予防を考えるうえでは、集団発生の報告も参考になります。12人の感染は同じ施術者による施術の後に起き、インクから原因菌のDNAが見つかりました[2]。針や器具に加え、インクそのものの管理も感染予防に関わることを示しています。施術を受ける場所を選ぶ時は、インクの保管や開封の仕方、器具の使い捨てについて説明を受けられるかを確かめてください。医療機関で行うアートメイクでは、施術後に気になる変化があった時に、そのまま医師の診察につなげられます。持病のある方や、過去に施術後のトラブルがあった方は、予約時にその点をご相談ください。

    よくある質問

    アートメイクの後に感染が起きる確率はどれくらいですか。

    東京都内の1施設で眉・アイラインの施術後に回収した質問票1,352件の報告では、感染の回答は3件、0.2%でした。眉は1,188件中3件、アイラインは243件中0件です。無記名の質問票で重複回答者数は不明です。1施設の自己申告による数字なので、アートメイク全体の感染率としてそのまま使えるものではありません。

    アートメイク後の感染はどんな菌やウイルスが原因になりますか。

    査読論文の症例報告には、一般細菌による蜂窩織炎、非結核性抗酸菌であるMycobacterium haemophilumによる集団発生、ウイルス性のいぼである扁平疣贅、単純ヘルペスの報告があります。それぞれ治療法が違うため、しこりや発疹が出たら医師の診察で原因を見分ける必要があります。

    感染のサインはいつごろ、どんな形で出ますか。

    症例報告では、施術の翌日に膿をもった発疹が出た例、施術から11日、14日、84日の時点で施術部位から液がにじんだ例、眉のしこりと首のリンパ節の腫れが出た例、施術の約1年後に施術部位にいぼが出て、その後数か月で広がった例があります。腫れや赤みが引かない、膿や液が出る、しこりが残る場合は医師に相談してください。

    論文にある症例報告の数は、実際に起きた感染の数と考えてよいですか。

    よくありません。症例報告には施術総数という分母がなく、率や発生率を計算できません。珍しい例ほど論文になりやすい出版バイアスもあります。分母が示された調査と、症例報告の件数は、別の種類の数字として読む必要があります。


    参考文献

    1. [1]. Shoichi Tomita, Katsuya Mori, Hitomi Yamazaki, Kaori Mori. Complications of permanent makeup procedures for the eyebrow and eyeline. (Medicine (Baltimore), 2021). doi:10.1097/MD.0000000000025755. リンク
    2. [2]. Stefano Giulieri, Benoit Morisod, Timothy Edney, Micaela Odman, Daniel Genné, Raffaele Malinverni, Catherine Hammann, Enrico Musumeci, Cathy Voide, Gilbert Greub, Eric Masserey, Jacques Bille, Matthias Cavassini, Katia Jaton. Outbreak of Mycobacterium haemophilum infections after permanent makeup of the eyebrows. (Clinical Infectious Diseases, 2011). doi:10.1093/cid/ciq191. リンク
    3. [3]. Uwe Wollina. Nodular skin reactions in eyebrow permanent makeup: two case reports and an infection by Mycobacterium haemophilum. (Journal of Cosmetic Dermatology, 2011). doi:10.1111/j.1473-2165.2011.00564.x. リンク
    4. [4]. Christine C. Akoh, Lisa Akintilo, Shruthi Shankar, Kristen Lo Sicco. A rare case of microblading-induced preseptal cellulitis. (JAAD Case Reports, 2021). doi:10.1016/j.jdcr.2021.08.014. リンク
    5. [5]. Jae Yoon Jung, Hyo Seung Shin, Chong Hyun Won, Soyun Cho. Facial Verruca Plana That Developed after Semipermanent Tattooing. (Annals of Dermatology, 2009). doi:10.5021/ad.2009.21.1.92. リンク
    6. [6]. Chang Won Koh, Kyoungjin (Safi) Kang. A medical perspective of the practice of semi-permanent makeup in South Korea. (Journal of Cosmetic Medicine, 2021). doi:10.25056/JCM.2021.5.1.16. リンク
    7. [7]. Marina Kristy Ibraheim, Mansee Desai, Melanie Tawfik, Ashley Elsensohn, Betsy Furukawa. Microblading-Induced Granulomatous Reaction: Case Report and Review of the Literature. (American Journal of Dermatopathology, 2023). doi:10.1097/DAD.0000000000002449. リンク
    8. [8]. S. A. S. van der Bent, D. Rauwerdink, E. M. M. Oyen, K. I. Maijer, T. Rustemeyer, A. Wolkerstorfer. Complications of tattoos and permanent makeup: overview and analysis of 308 cases. (Journal of Cosmetic Dermatology, 2021). doi:10.1111/jocd.14498. リンク
    9. [9]. Trygve Nissen, Rolf Wynn. The clinical case report: a review of its merits and limitations. (BMC Research Notes, 2014). doi:10.1186/1756-0500-7-264. リンク

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